紀元前1500年の民族が紡いだ物語の結集!…実は笑えるケルト民話です

小説・エッセイ

更新日:2012/3/21

ケルト幻想民話集

ハード : PC 発売元 : インタープレイ
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子書店パピレス
著者名:小辻梅子 価格:630円

※最新の価格はストアでご確認ください。

皆さんは「ケルト幻想民話」と聞いて何を想像しますか?
私は「幻想」「民話」のふたつのワードからファンタジーを思い浮かべ「きっと私を未知の世界へ連れて行ってくれるのだろう」と期待を膨らませました。ただ、一方で「ケルト」が何を示す単語なのか、人名なのか土地なのか全くの皆無。(世界史で少しは触れたはずなんですけどね)「ケルト」がヨーロッパの先住民族「ケルト人」を指し、彼らが語り継いできた物語と知ったのも、実際に本を開いてみてからです。

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本書で語られているのは、数あるケルト民話の中のほんの一部ですが、物語を楽しみながら彼ら独自の信仰、価値観や風習を堪能できる1冊になっています。
内容としては、「英雄のおもかげ」 「かたりべ達の競演」「悲しみの始まり・悲しみの終わり」 「ダーマットとグラーニアの運命」 の全4篇+あとがき が収録されています。

ケルト人は紀元前1500年頃にはもうすでにヨーロッパに存在していたといいます。
この頃、日本は縄文時代中期だとか…こう考えると改めてケルト人の文学はすごいって思います。これはもう古代文学の域に達しているわけですが、本書を読むと現代人も夢中になってしまう理由がよく分かります。それは “神格化された存在の人間らしさ”。

これがよく描かれていると感じる私のイチオシはこれです!
第1篇の2章「フィン対クーフーリンの勝負」。ケルト民話のフィンと言えば英雄として名高い存在なのですが、フィンは自分よりも強そうな敵クーフーリンを目の前に、なんと赤ん坊のフリをしてやり過ごすという臆病な一面を晒します。大の大人で、ましてや英雄が「おかぁちゃん」と泣くのがもう可笑しくってたまりません! もっと突っ込むと赤ん坊なのに随分達者にしゃべりますし、これが英雄でもいいのか? というくらいのマヌケっぷりは必見です。

こういうユーモアセンスが合うと一気に時代とか無視して距離が縮まりますよね。
語りの技術、悲恋の物語、復讐劇などバラエティに富んでいて、どのお話も興味深い物ばかりです。全篇語り尽くしたい気持ちでいっぱいなのですがどうにか押さえます! 後は皆さんご自身の目でお確かめください。


第1篇ではマヌケなフィンも 第4篇では復讐の鬼と化す 

物語の舞台であるアイルランドの略図。照らし合わせながら読むとよりおもしろい

挿絵も味があっていいです。ちなみにこれが例の赤ん坊フィン!

アイルランドでも古くから愛されている悲恋の物語。多くの作家が脚色しています

あとがきでは訳者が各物語の解説をしてくれている