あざといまでの大団円! ヤクザが経営する観光ホテルは笑いと涙がいっぱい

小説・エッセイ

公開日:2012/3/22

プリズンホテル 1 夏

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:浅田次郎 価格:486円

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今や安定のヒットメーカーにして大御所作家となった浅田次郎の、初期のエンターテインメントである。笑いと泣かせ、人情とドタバタが隅々までみっちり詰まった娯楽小説。著者のサービス精神がそのまま文字になったかのような楽しさだ。

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舞台は奥湯元あじさいホテル、通称プリズンホテル。経営が破綻したリゾートホテルをヤクザが買い取り、経営しているという設定である。つまり従業員も殆どがヤクザ。客もヤクザ。仲居さんは出稼ぎフィリピーナだ。「うちにゲソつけられたお客さんは身内も同然」なんて言っちゃうのである。失敗したら指つめるの何のという話になるのである。

そんなホテルに、大手ホテルチェーンで失敗して左遷されたホテルマンが支配人として赴任した。もちろん驚いた。しかし更に驚いたのは、そんなホテルとは知らずにうっかり泊まってしまった一般客たちである。このホテルのオーナー(つまりヤクザの親分)の甥であるエキセントリックな小説家とその愛人、定年直後のフルムーン旅行に来た夫婦(しかし妻の方にはある目論見が…)、そして一家心中を図ろうとしている4人家族。

そんなワケありの一般客達ともっとワケありの従業員たちが織りなすドタバタは、何だかいろいろ思わぬ方向に転がって、いつの間にか彼らが抱えていた問題を解決してしまう。あざとい? 上等じゃないか! ご都合主義? それの何が悪い! あざとさやご都合主義もここまで巧くハマってくれれば何の文句があるものか。むしろそれが物語のカラーに合っていて、不思議な懐かしささえ感じてしまう。

難しいことを考えるのに疲れたり、鬱屈した毎日がしんどいなと思ったりしたら、ぜひ本書を開いて欲しい。何も考えずに笑って泣けて、実際にはあり得ないこのホテルがまるでファンタジーのように心の澱を吹き飛ばしてくれると思う。

ただ残念なのは、単行本についていたホテルの平面図が電子版には載ってないこと。「不慮のガサイレ、カチコミの際には当館係員の指示に従って下さい」などと書かれていて、ひとしきり笑ったものだったが。


各章の扉には印象的なセリフの抜粋が

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