サクッとした小気味良いホラーをあなたに
公開日:2012/3/25
闇の声
ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android | 発売元 : 朝日新聞社 |
ジャンル:コミック | 購入元:eBookJapan |
著者名:伊藤潤二 | 価格:432円 |
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こちらはホラーマンガを描かせたら右に出る者はいない伊藤潤二さんの短編集になっております。
本書ではその短編を全7話収録。しかし短編とはいえ侮るなかれ、どれもこれもが数珠の理不尽ホラーを展開してくれていますので心配無用です。むしろ短編ならではの加速力があり、振り切れ方も尋常じゃありません!
限られたページ数に普段の伊藤潤二さんの無尽蔵な理不尽パワーを注ぎこんでいるので物語の質が段違いなんです! というのも1話完結で次の展開を考える必要がないので、その場の思いつきですら瞬間的に描き切ってしまえるんでしょうね。いや、もうすばらしい限りです。
そんなひねくれた物語ばかりの中で、僕が唯一さっぱりとしてるなと思ったのが「轟音」というストーリーですね。これは山登りに出かけたキャラクターたちが洪水の幻影に出くわしてしまうというお話です。特に主人公たちを襲うような存在はいませんし、恐怖を与える異形はほぼ皆無です。
ある事柄が、その土地に土着してしまうという一種の自縛霊的なものなのですが、人間ではなく災害自体が自縛してしまうというのはとてもおもしろいです! そして何だか心に残ってしまうシーンは、この災害で被害に遭っている人たちも自縛して幾度とその災害を定期的に再現しちゃう場面なんですよ。この人たちは自分が死んだことも分かってないんです。何度も何度も悲劇に遭う運命を思うと怖くて仕方がありません。直接的に怖くはないけど、ちょっと考えたらそれってとっても怖い。まるで抜け出ることができない迷路のよう。例え化物が出なくてもしっかりと人が怖がるトリガーを忍ばせてくれているあたり、何だかニヤリとしたくなちゃいますね。
さて、7話中でもたった1話だけをオススメさせていただきましたが、おもしろいのはこれだけではないので期待してください。短いからこそできる、そんな話が凝縮されていますので、1冊でこの質はなかなかと唸ってしまうこと間違いなしでしょう。
オムニバスは短時間でお話を消化できるので、時間がなくて長編を追うのが億劫な方にもぜひオススメしたい1冊になっています。
短編集の第一話を飾る「血をすする闇」
短編の中でもキャラクターが息づき、しっかりとオトしてくれます
第二話ではお笑い芸人を使ったホラーが展開されます
笑いという一見恐怖とかけ離れたものでも伊藤潤二さんの手にかかればご覧のとおり
笑いが生みだす恐怖の正体見たり! という感じですね (C)JUNJI ITO