“辛辣なツッコミ”が癖に! さくらももこ『コジコジ』の魅力を名シーンで思い出す!

マンガ

更新日:2018/12/3

『COJI-COJI』(さくらももこ/集英社)

 くまさんのような丸い耳。ライオンのたてがみのようなふわふわの髪(?)。純真無垢でつぶらな瞳。能天気な印象を与えるほっぺたのマーク。

 動物なのか、人なのか、男なのか、女なのか、まるでわからない存在なのが「コジコジ」だ。コジコジが住むのは、人間世界からは遠く離れたメルヘンの国。メルヘンの国の住人は、人間を喜ばせるための役目をもち、私たちにとってのミッキーマウスやスヌーピーのような存在なのである。

 そんなメルヘンの国にある学校での物語を描いた漫画『COJI-COJI』(集英社)は、そのファンタジーな世界観と、随所に含まれるブラックユーモアや辛辣なツッコミのギャップが癖になる作品だ。

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 主な登場キャラクターは、主人公のコジコジのほか、コジコジの隣の席に座る半魚鳥の次郎、下駄を飛ばしてお天気を占うお天気の神様ハレハレ君、有名人のサイン集めが趣味である太陽の城の王様であるゲラン、能天気なゲランとは対照的なシニカルな性格をした雷の城の王様ドーデス、クラス一の友達想いなてるてる坊主のテル子、頭がよくて謙虚な光の粒のペロちゃん、そんなペロちゃんに想いを寄せては度々沸騰を繰り返すやかん君、そしてそんな沸騰したお茶をこよなく愛するカメの精カメ吉くん……などなど、個性豊かな住人たちばかりである。

 作者のさくらももこといえば真っ先に出てくるタイトルは『ちびまる子ちゃん』であることが多いが、このコジコジも全4巻ながら根強い人気を誇っている。特に、作品の序盤にある先生とコジコジのやりとりのシーンは話題になった。

(1巻 15ページより)
(C)MOMOKO SAKURA

 埒があかない問答に疲れた先生は、「コジコジ キミ…一体何になりたいんだ それだけでも先生に教えてくれ」と問う。

 そんな先生に対してコジコジは「コジコジだよ コジコジは生まれた時からずーっと 将来もコジコジはコジコジだよ」と返し、先生だけでなく周りの生徒にも感動を与えるのだった。

 しかしコジコジの発言に感銘を受け、母親に対して同じ発言をした次郎は「バカ言ってんじゃないよっ」と殴られてしまうのがまた不条理である。

 コジコジは終始一貫、誰の発言にも惑わされず、「バカだ」と言われても気にせず、至極マイペースに日々を過ごしている。次郎同様、読者も「こんな風に生きることができたらストレスもないだろうな」と思うメンタルの強さ。ついつい読んでいて羨ましくなってしまう。

(4巻 110ページより)
(C)MOMOKO SAKURA

 ほのぼのとした世界観の中で繰り広げられる、おとぎ話のようなストーリーと、それに似つかわしくないブラックユーモアやナンセンスギャグ。強制的にメルヘンの国に連行されて記憶を消されたジョニーなど、かなりかわいそうな目にあっているキャラクターもいるのだが、そこにジメッとした悲壮感はない。ただ淡々と物語は進んでいく。

 悪さばかりするブヒブヒとスージーに怒ったカメ吉くんが禁断の技“カメの思い出”(何万年分もの思い出を一気に結集してエネルギーに変える技。211年前にこの技で5人が死んだという)を発動したときも、コジコジは「ブヒブヒ達はそろそろ死んだかなあ まだ 生きてるかなあ」と、いつも通りの平和な調子で言ってのける。

(1巻 65ページより)
(C)MOMOKO SAKURA

 それまでが緊迫したムードなだけに、読んでいる方は肩透かしである。しかし、それに突っ込む次郎くんに「じゃあどういう顔で言えばいいの?」と言うコジコジ。次郎くんは「もう少しこう悲しい顔をするとか…一応な」とたどたどしく答えるのだ。確かにストレートに「どういう顔で言えばいいの?」と聞かれると、少し詰まってしまう。悲しい気持ちじゃないのに、悲しい顔をするのは、本当に正しいのかな? コジコジのピュアな疑問はいつも、大人の読者の固定観念を揺るがす。

「みんな役に立っているんだね コジコジは役に立ったことないよ」なんてセリフもある。そう言いながらも全く気にしていない感じがするのがコジコジの魅力だ。手が届かない神様に手紙を送ろうとする天使に対して、「相手にしてくれなきゃこっちも相手にしなきゃいいのに 手紙なんか書くのよしなよ」なんて言ってのけるコジコジには、もはや気高さすら感じられる。

 能天気なセリフのオンパレードは、普段の仕事や人間関係に疲れたときに、ちょっと読みたくなる作品にしている。いいことを言ったと思ったら、直後にそのセリフをひっくり返すようなオチがあったりする。一方で、ふざけてばかりいると思ったら、時折胸を打たれるようないい話があったりして、ズルい。

 最後に、この作品で私が特に好きなセリフを書いて締めようと思う(きっとこの作品の愛読者は、それぞれに特にお気に入りのセリフがあるだろう)。

 それは、雨の日に田んぼで遊ぶ蛙に対して、ジョニーが言った「キミ達って何の役にも立たないだろ? ボクもそうなんだ その事についてどう思うかい」というセリフへの蛙の返答だ。

「は? 役に立つかどうか?」「どうでもいいじゃんそんな事 オレ達 ただモーレツに生きてるだけさ」

(3巻 34ページより)
(C)MOMOKO SAKURA

 そんな蛙とともに飛び跳ねるコジコジも、やはり、ただモーレツに生きている。そんな彼らの姿を見て感銘を受ける読者は、同じく感銘を受けて自分の前世は蛙だったのだと解放感に満ち溢れるジョニーとともに、次郎の「絶対に違うと思うよ」というセリフで突き放されるのだ。一筋縄ではいかないのが、またこの作品の魅力である。

文=園田菜々

(C)MOMOKO SAKURA