日本アルプスは日本本州の中央大山系なのです

公開日:2012/4/6

アルピニストの手記

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 平凡社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:eBookJapan
著者名:小島烏水 価格:756円

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横浜正金銀行に勤めながら、登山家、随筆家、文芸批評家であり、浮世絵や西洋版画の収集家、研究家でもある小島烏水の著。初版は昭和11年に刊行されたものである。

前半は、明治の時代、著者が日本に知れ渡らせた「日本アルプス」についてのエッセイが綴られている。以下は、著者の書「日本アルプス」の当時の広告文である。

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「日本アルプスは日本本州の中央大山系、即ち越後、越中、信濃、飛騨、甲斐、美濃にまたがり、高山深谷、白雪深林などの大自然に富み、最も複雑なる構造と高調の色彩を有すれど、本来人跡殆ど全く到らず、従来の地理文学絵画より、削除させられたる境域なり」

この宣伝文に起因するが、著者が日本アルプスという地名を日本に広めたと言っても過言ではない。

後半は著者と登山関係者との交遊録である。
紀行作家は、演劇評論家の饗庭篁村、幸田露伴、田山花袋など著名な作家の顔ぶれが並ぶ。登山家も、英国山岳会長でありながら、「アメリカ共和政治」の著者でもある英国政治家ジェームス・ブライス。大阪造幣廠に勤務しながら、飛騨山脈探検者である英国人ウィリアム・ガウランド。東京帝国大学文学部名誉教師、有名な日本研究家のひとりであるバジル・ホール・チェンバレン。明治の探検家松浦武四郎。「氷河は果たして、本邦に存在するのか?」と明治35年に東京地質学会で発表した地質学者山崎直方。植物病理学の権威白井光太郎など、こちらも当時の日本登山界を牽引した人物が並ぶ。

著者も紀行文作家のひとりに加えられるわけだが、自らを氷屋と評する。そもそも自分の文筆はとても商売にはならないが、それでも夏向きになると、それ山のことを何枚書け、やれ山の講演を頼むというような注文がくるそうである。だが秋風が立ち始めるとばったりだとか…。このエピソードは山に関わる文筆家ならではのお話である。

日本はその複雑な地理のため、アルピニスト、登山を趣味にする人の数が多い。そんな方には、ぜひお薦めできる書である。


著者と交流のあった英国人ウィリアム・ガウランドの写真。ウィリアム・ガウランドは探検家である

山の植物に詳しい山崎直方と写真と彼が書した絵葉書

こちらも著者と交友のあった英国登山家ジェームス・ブライスの写真 (C)小島鳥水/平凡社