第146回芥川賞受賞作品は「音楽」のような不思議な物語

小説・エッセイ

公開日:2012/4/13

道化師の蝶

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:円城塔 価格:1,134円

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いろいろなメディアを通じ、諸々の話題を振りまいた2011年下半期・第146回芥川賞。
この回の芥川賞は2作品受賞で、一方が田中慎弥の『共喰い』。内容についてここでは深く触れないが、作者の特異なキャラクターが話題になったのは記憶に新しい。そして、もう一つの受賞作がこの『道化師の蝶』で、作者は円城塔。おそらく作品内容に対する賛否両論はこちらの方が激しかったのではなかろうか? ちょっとした問題作である。

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個人的に小説は明快に内容の伝わるタイプが好みなのだが、この作品は完全に対極。まず、ジャンルがどこに属するのかが全くわからないし、(こちらの読解力の問題もあるのだが)文章もどこか異常にかっとんでいて、そこに意味を見出すのが本当に難しい。構成も正直奇抜であり、場面や話の方向がクルクル入れ替わる気がする。これ、読了するのは正直無理な気がしたのだが…。

どういうワケだか、割と短い時間で最後まで読み切った。
読み終わっても意味はさっぱり解らないママではあるのだが、心に残るのはかなり明快な躍動感。この原因はきっと作者が先天的に持っている“文章のリズム”にありそう。

アバンギャルドで無秩序と思われがちな文字の羅列の中に、突然印象的な韻踏やリフレインが現れる。本を読んでいる、と言うよりも音楽、それもインプロビゼーションに近い前衛的な楽曲を“聴いている”感じに近い。思い浮かんだメロディに併せ、本文に節をつけて歌ってみると、かなりの確率で違和感がない。そのへん、実に不思議。

調べてみるとこの作家、本来は博士号を修得している物理学の専門家。
だとするとこの作家は、人間の本能に訴える某かの法則を熟知し、狙った上でコレを書いているのかもしれない。仮に、そんなことを一切考えていなかったとしても、きっと無意識のうちに何かの仕掛けをしているに違いない。そう結論づけておかないと、この作品に間違いなくある「得体の知れない魅力」の説明がつかないので。

しかし、芥川賞って本当に懐が深い。考えてみれば晩年の芥川作品にもこのテイストの作品があったような気が。龍之介も草葉の陰でニヤッとしてるな、きっと。


冒頭から早くも韻踏の嵐、ここで波に乗れないとこの先が苦しくなる予感

iPad横位置・デフォルトの見開き表示、この作品に関しては文字を少し大きめに設定した方が良いかも

文字サイズを一段階落とすと、通常の文庫本とほぼ同じフィーリングに

フォーマットは最近多くなってきたドットブック形式、UIはシンプルで非常に解りやすい

iPad横位置での横書きフォーマットを試す、ルビの表示に違和感がない

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