現代のホームズはクリーニング店にいた! 商店街の人情がおりなす連作ミステリ

小説・エッセイ

更新日:2012/4/16

切れない糸

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 東京創元社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:坂木司 価格:648円

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その昔、シャーロック・ホームズは相談者の上着の袖がテカっていることや袖口のほつれから職業を当てていた。現代にそんなことができる名探偵はいるか? いるいる。それはクリーニング店だ。本書は東京の昔ながらの商店街にある、新井クリーニング店が舞台のミステリ連作集。

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クリーニング屋に出す衣類を考えてみよう。体型が分かるのはもちろんのこと、背広を出す家は勤め人、子どもの有無などの家族構成もわかるし、出す衣類の種類が急に変わると「何かあったのかな?」ということになる。ポケットにレシートでも入っていようもんなら買い物の中身まで分かってしまう。ホームズならさぞや腕のふるい甲斐があろうってものだ。しかもクリーニングとは、汚れの正体を推理し、その汚れに合った方法で対処するという推理力も必要なのだ。

父親の急逝でクリーニング店を継ぐことになった大学4年の和也。脇を固めるのは謎の来歴を持つアイロン職人のシゲさん、パート従業員のおばちゃんたち、そして同じ商店街の喫茶店でバイトをしている友人の沢田。少しずつ仕事を覚え始めた和也のもとに持ち込まれる洗濯物が謎を呼ぶ。第一話では急に洗濯物の種類が変わった一家の事件、第二話ではクリーニング店を信用してないと言い切る幼なじみの問題、第三話には妙に派手な女性ものの衣装ばかりを持ち込むおじさんの謎。

もちろん洗濯物から得られる情報はプライバシーの最たるものだから、和也たちも余計なことは口にしない。でも「あれ?」と思ったときには手を貸す。その情報を、そのひとのためだけに使う。その優しさが本書を暖かい作品にしている。和也たちによって秘密を暴かれてしまった側が、引き続き登場して和也たちに協力するのがその証拠だ。「人に直接関わって、推理して、汚れやほつれを直す。すごい仕事だと思ったよ」というセリフがあるが、それはもちろん服の話だけでない。

クリーニング店の内側を知ることができるのも興味深い。こんな仕事をしてるのか、なるほど家庭ではできないわけだ。クリーニングに服を出すのが、ちょっと楽しみになってくる1冊である。


紀伊國屋ブックウェブでは、なんと電子書籍にもお馴染みのカバーが!

表紙もちゃんと見られます。タブレットではちょっと小さいけど

創元推理文庫でお馴染みの、作品の英語タイトルもちゃんと載ってる

こちらも創元推理文庫でおなじみ、冒頭に記されたあらすじ。文庫が好きだったひとも馴染みやすい構成