中国人ママ友グループで話される話題とは? 鳥取を超えた!70万人の中国人が日本に住む衝撃

社会

公開日:2019/2/19

『日本の「中国人」社会』(中島恵/日本経済新聞社)

 街中で外国人を見かけることが珍しくなくなった。コンビニ、飲食店、繁華街…様々な国の人が様々な場所にいる。特に日本に住む中国人の数は増加傾向にあり、法務省入国管理局の統計によると、2017年に約73万人に達したそうだ。鳥取県の人口(約56万人)を遥かに超える。

 数が増えればコミュニティができる。中国人は日本で私たちの知らない「中国人社会」を築いている。

『日本の「中国人」社会』(中島恵/日本経済新聞社)は、日本に住む中国人たちの日常に潜入したルポルタージュだ。内容を読み進めると、私たちが抱く「中国人像」とは少し違うものが浮かび上がる。

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 2010年、急激に発達した中国経済はついに日本のGDPを追い抜く。それにともない仕事で日本に移住する家族や裕福な親を持つ中国人留学生が増えた。子どもたちは日本で進学して卒業し、銀行や商社、シンクタンクの研究員、エンジニアなど、様々な職業に就職。日本国内に法人を設立する経営管理ビザの取得者も増えた。かつては「不法滞在」のイメージが強かった中国人だが、今やその犯罪件数は劇的に減り、彼らの実情は大きく変わりつつある。本書の冒頭を読んで驚く人が多いのではないか。

■中国人のママ友グループ

 一昔前は数が少ないために、来日した中国人は頼りにできる人が限られていた。そのため血縁を探し、同郷やビジネスの縁を作り、「華人・華僑ネットワーク」を築いた。しかし現在はSNSの時代。リアルで関わりのある人だけでなく、会ったことのない人ともつながれる。よって、ビジネスマンだけでなく、「中国人のママ友」で形成されるチャットグループも数多く存在する。

 そこで日々やり取りをされるのは、「日本の特急電車にはトイレはついている?」に始まり、「子どもの運動靴を洗うならどの洗剤がいい?」「授業参観には何を着ていけばいい?」など、なんだか見慣れたものばかり。なかには「夫婦生活がご無沙汰で…」というのもあるとか。「旅の恥はかき捨て」という言葉があるように、リアルで面識がなくSNS上で「ゆるーく」つながっているからこそ聞ける。異国にいても誰かと「つながっている感」が中国人SNSコミュニティを活発にさせているそうだ。

■公立もまるでインターナショナル・スクール!? な西川口

 もちろん中国人社会はSNSだけでなく、リアルでも形成されている。たとえば埼玉県川口市にあるJR京浜東北線・西川口駅。保証人を必要としない物件の存在や都心までのアクセスの良さにひかれ、口コミで徐々に中国人が引き寄せられ、ここ数年で西川口駅周辺はチャイナタウンのごとく変貌した。

 小学校はインターナショナル・スクールを彷彿とさせるほど日本と中国の子どもが入り交じる。餃子作りで保護者同士が理解を深め合うイベントがある一方で、「歯が落ちた(=歯が抜けた)」「髪を削った(=髪を切った)」など間違った日本語を覚えてしまい、言葉の壁に苦しむ子どもたちがいる。

 中国人は日本社会に溶け込むために「中国人社会」を築いて互いを助け合い、ときには日本人と仲良くなるために積極的に活動する。本書を読めば読むほど、私たちがなんとなく抱く「中国人像」にヒビが入るはずだ。外国人に対して免疫のない日本人が「中国リテラシー」を向上させる良いきっかけになるように感じる。

■日本に住み続ける理由

 本書の最後では、彼らが日本に住み続ける理由を紹介している。日本の生活が長くなって中国での生活が考えられなくなった人、日本の文化になじんで好きになった人、中国の中堅企業以下の給与は日本の同規模企業より低い傾向にあるので経済的に日本に残る人…。私たちが今いる土地に住み続ける理由と同様、千差万別だ。それぞれの理由がある。

 一方で「中国に帰ったときの人生を想像する」こともあるそうだ。故郷に帰って今の自分と違う人生に思いをはせる。それでも多くの人が「日本に住む決断をして良かった」と語るので、じんわりと心が温かくなる。彼らは日本を好きでいてくれる。

「自分は外国人である」という思いが常に頭の片隅にある彼らは、今日も外国人として日本に溶け込むべく努力を重ねて生活する。本書に記された中国人社会の実態を日本人が目にすることで、一面的なイメージを抱きがちな「中国人リテラシー」が少しでも向上すればいいなと感じてならない。

文=いのうえゆきひろ