「忖度ナシ」の辛辣な表現! 日本の政治は海外メディアからどう見られている?

ビジネス

公開日:2019/3/29

『世界が見たニッポンの政治』(藤平育子、上岡伸雄、長谷川宏/文芸社)

「最も進んだ工業国に、日本が追いつく日はそう遠くないだろう」──と、今日のモノづくり大国ジャパンの姿を、江戸時代に予見していた人物がいた。1853年に黒船で来航した艦長、ペリー提督だ(参照『ペリー提督日本遠征日記』角川ソフィア文庫)。

 鎖国していただけに、ペリーのように日本人自身のポテンシャルに気づいていた自国民はほぼいなかったかもしれない。このように、世界を知る「外国人視点」で見た日本や日本人のありようは、時に問題点を見失っている自国民を目覚めさせてくれることがある。

 では、現在の日本の政治や、日本が歩もうとしている未来は、世界の外国人記者たちからはどのように見えているのだろうか? そんなことを教えてくれるのが『世界が見たニッポンの政治』(藤平育子、上岡伸雄、長谷川宏/文芸社)だ。

advertisement

■政治家に“忖度しない”ストレートな表現が満載の海外メディア

 本書は、ここ数年の日本の政治に関する英文記事をいくつか取り上げ、語注と訳文をつけたものだ。読み進めると、非常におもしろい。というのも、日本の御用記者たちにはまず使えないであろう、政治家に“忖度しない”ストレートな表現が散見されるからだ(本来、“忖度”とは、人の意向などを推測するという意味だが、ここでは「おべっかやへつらいをして、権力者に気に入られようとその意向を推測する」という意味で使っている)。

 例えば、こんな記事を挙げてみたい。

「政治圧力への批判のさなか、日本のテレビアンカー降板──テレビ局3社の関係筋によれば、降板の前に総理大臣が放送局のトップと夕食会」(『ガーディアン』2016年2月17日、ジャスティン・マッカリー記者)。

 この記事は、2016年に次々と各局のキャスター(NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子、テレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎、TBS「NEWS23」の岸井成格の各氏)が番組を降板した背景について取材した記事だ。

 当時日本でも「政治圧力では?」と騒がれたものの、結局うやむやになった件だった。この記事を担当したガーディアン紙のマッカリー記者の論調はどうかといえば、評論家によればと前置きしたうえで、「3人は、自分たちに異議を申し立てたメディアを弾圧する一環として、強制的に追放されたのである(They were forced out as part of a crackdown on media dissent)」と断じている。

 やはり海外のメディアである英国ガーディアン紙、まったく忖度していない。

■レイプ被害を公表した伊藤詩織さんに関する注目記事

 本書が紹介する記事のひとつ、「日本の最高レベルの政治家が恥ずべきレイプ隠ぺいの背後にいるのか?」(『デイリービースト』2017年6月20日、ジェイク・アデルスタイン記者)は、読んでいて思わず怒り心頭に発する記事だ。

 この記事は、放送ジャーナリストの山口敬之氏を相手取って、レイプ被害を告訴、公表した伊藤詩織さんに関するもの。どうやらこの件にも政治や権力が絡んでいたという論調だ。

 アデルスタイン記者は、TBSの元ワシントン支局長だった山口氏を「首相に最も近い(closest to Prime Minister Abe)」と表現し、さらに首相と山口氏の緊密さを、山口氏が書いた著書が「総理へのごますり満載の本(a book full of flattery for Abe)」であることなど挙げて指摘。山口氏逮捕を寸前で差し止めた警察上層部の判断の背後には圧力があったと伝えている。

 本書では他にも、公判が始まったばかりの森友学園問題や、共謀罪法案に関する記事などがオリジナルの英文と、訳注付きの日本語対訳でわかりやすく解説しながら掲載されている。マスコミの本分は、体制監視である。その意味では、日本のマスコミが忘れてしまった(あるいは恐れている)責務を、海外記者たちはしっかりと果たしているように感じる。関心をもった方は、ぜひ本書で確認して欲しい。

 本書は、英語や時事問題を学びたい人にとっても最適の1冊となるだろう。著者(翻訳者)たちはいずれも大学教授であり、少しでも多くの日本人が「政治を外国人と対等に、英語で語れるようになって欲しい」という願いを本書に込めているという。

 果たして日本はこの先、どんな道を歩むのだろう。本書から読み取れる外国人記者たちの鋭い眼差しは、「その道は決して平たんなものではないだろう」と語りかけているかのようだ。

文=未来遥