今すぐSNSのアカウントを削除すべき10の理由――私達はこのように“操縦”される

暮らし

公開日:2019/5/29

『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』(ジャロン・ラニアー:著、大沢章子:訳/亜紀書房)

 SNSは人の心を狂わせる。著名人がSNSで炎上し、バカッターと呼ばれる投稿者が恥と外聞を忘れて愚かなツイートをアップし、友人や知人のプレイベートを覗きすぎた人々は「SNS疲れ」を訴える。ソーシャルメディアの価値は、遠く離れた世界中の誰かと24時間いつでもどこでもつながっていることだ。しかしその価値よりも弊害のほうがニュースを騒がせ、日本だけでなく世界中で問題になっている。

『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』(ジャロン・ラニアー:著、大沢章子:訳/亜紀書房)は、タイトルの通り、SNSのアカウントを消すべき理由をたっぷり述べたもの。

 私たちは薄々気がついているはずだ。SNSは人を幸せにするのか? 本当に必要なのか? これは誰のための道具なのだろうか? その疑問は、本書に記された理由を1つ読むたび、濃くなり、やがて確信に変わるだろう。

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■人はSNSに溺れ、SNSは社会を破壊する

 依存症という言葉が一般的になって久しい。「薬物依存」に始まり、ギャンブル、アルコール、ネット、果ては「万引き依存」まで存在する。人間はとても弱い生き物で、ある種の強い誘惑に一度引っかかると、その身を滅ぼすまで依存し続ける。

 そしてこの依存症はSNSでも起きてしまう。Facebookの初代社長を務めたショーン・パーカーはこのように述べた。

ユーザーには、ちょっとしたドーパミン・ヒットを与える必要がある。写真や投稿、そのほかのどんなものにでも、誰かが『いいね』をしたりコメントを書いたりするから……社会的評価のフィードバックループができる……私のようなハッカーがいかにも思いつきそうな仕組みだ。なにしろハッカーは人の心の弱さにつけこむものだから(中略)……そして思いもつかない形で生産性を低下させることになるだろう。子どもたちの脳にどんな影響を与えるかは神のみぞ知るところだ。

 まさか初代社長自らこのようなことを言うとは……。さらに同社のユーザー拡大担当副社長を務めたチャマス・パリハピティヤは次のように述べた。

「私たちが作り上げた、ドーパミン主導の短期的なフィードバックループは、社会を破壊しつつある……(中略)唯一の解決策は、ソーシャルネットワークというツールを使わないことだ。私自身はもう何年もソーシャルネットワークを利用していない」

 恐ろしい……。SNSの頂点の1つである世界的大企業の元トップたちが、社会に与える影響を危惧し、SNSを敬遠しているのだ。

 しかしなぜ人々はSNSに魅了され、やがて依存していくのだろう。そのカギはSNSを運用する企業が開発したアルゴリズムにある。アルゴリズムがどのように作用して人間を依存させていくのか、その詳細な仕組みは本書に譲りたい。とても簡単に述べれば、ユーザーに合わせてカスタムされた“ランダムな刺激”によって、人はSNSに溺れていくのだ。

■実験動物の暮らしへようこそ

 かつての広告は、本当に広告だった。巨大な看板に自社の商品をデカデカと描き、「この商品が素晴らしいから買ってくれ!」と訴える。テレビに流れるCMがどれだけ素晴らしくても「これはCMだなぁ」と理解できた。悪く表現すれば「垂れ流し」だ。

 しかしSNSが表示するコンテンツは、その限りではない。FacebookやTwitterをはじめとするさまざまなSNSではアルゴリズムが作用している。私たちがSNSを利用するたび、アルゴリズムが機械的にユーザーの行動を測定し、ユーザーが喜びそうなコンテンツを選定して、的確なタイミングで表示する。そして表示した後のユーザーの行動も含めて“データ”として蓄積し、そのユーザーに相関のある別のユーザーに、測定したデータが有効かどうかコンテンツを表示して確かめる。

 常に膨大なデータを測定し、思惑通りにユーザーが行動する方法を探り続けているのだ。著者はこれを「執拗な行動修正」と表現し、人々を操る「操縦」と断言している。

 なによりこの仕組みの恐ろしいところは、たとえば悪意のある誰かがこの操縦方法を手に入れたとき、操縦者の思い描くままに社会を動かせるかもしれないことだ。今のところそんな大事件は記憶にないが……これからはどうだろう?

 私たちは自分の人生のために意志を持って自由に暮らしている。それが人間だ。しかしSNSを運用する世界的大企業は、「行動修正の専門技術者」を雇い、ユーザーを操縦するアルゴリズムを開発し、巨大な利益を上げている。もちろん今この瞬間もだ。ユーザーの行動は常に監視され、巨大なデータとして積みあがる。著者はSNSを利用する私たちをこのように皮肉っている。

実験動物の暮らしへようこそ

■SNSはユーザーの行動を最低にさせる

 だんだんSNSの利用が怖くなってきた読者も多いのではないか。本書を読んだ筆者も、なんだかSNSアプリの親しみあるアイコンが悪魔の誘いに見えてきた。そして最後に紹介する理由は、筆者だけでなく読者にも身に覚えがあるはずだ。

 SNSはユーザーの行動を最低にさせる。たとえば一時期「嘘松」という言葉が流行った。これは、ある特定のユーザーがSNS上で注目を集めたいがために、事実ではないニセの体験を投稿し拡散を狙う行動だ。

 また、ユーザーの中には日常的に批判を行い、攻撃的な発言を繰り返す者もいる。常に別のユーザーと言い争い、正体の分からない承認欲求を渇望する。

 どちらの行動もSNSに依存した人ほど見られる傾向であり、彼らはSNSに溺れるほど最低な人間になっていく。しかし悲しいかな、SNSは最低な人間ほど大きな発言力を獲得する空間だ。現実世界で同じ行動をすると、周囲は警戒して誰も寄ってこない。しかしSNSでは最低な行動を繰り返すたび、感情はどうであれ、周囲にユーザーがたむろする。

 SNSは人の心を狂わせる。そうさせるだけの仕組みがそこにある。本書に記された恐ろしき10の理由を読めば、きっと読者は結論を出すだろう。SNSは人を幸せにするのか? 本当に必要なのか? これは誰のための道具なのだろうか? どの問いも、どうやら「私たちのため」という答えには行き着かなそうだ。

 さらに恐ろしいことに、ここまでの内容は、「理由1」「理由2」「理由3」のそれぞれの一部を切り取ってご紹介したにすぎない。著者は本書の最後でこのように述べている。

この本は、あなたが考えるべきソーシャルメディアの問題点を網羅するものではない。それにはとうてい及ばない。

 しかしいきなりSNSをやめるのは難しい。仕事上、やむを得ず続けている人もいるはず。筆者もこのような記事を書いたからといって、いきなりやめる選択はできない。ではどうすればいいのか? 著者はこのように続けている。

行動修正をもくろむ巨大テック企業としばらくの間――たとえば六か月ぐらい?――距離を置くのだ。

 人類はSNSという恐るべきネットワークグループを開発してしまった。この事実に気づいたときにはすでに手遅れで、スマホを持つ大半の人が欠かせないサービスとして利用している。いきなりやめるのは難しいにしても、一度距離を置くことはできるかもしれない。SNSとの付き合い方を、今一度見直してみたい。

文=いのうえゆきひろ