山村美沙のテレビサスペンス的ミステリに、まいりました!

小説・エッセイ

公開日:2012/4/26

京都茶道家元殺人事件

ハード : PC 発売元 : 光文社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:山村美紗 価格:432円

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劇団四季の山村美沙は、すごいらしい。
いや、やらないけど、四季は、山村美沙。ただ、やったらすごかろうという話。

なにがすごいといって、どれ読んでも「ほぼいっしょ」という金太郎飴パワーが恐れ入るのであり、なのに売れちゃうテレビでひっきりなしにサスペンスになっちゃうという勝てば官軍パワーがさらに人をへこませる。しかし、その「ほぼいっしょ」感がどこから来るかといえば、トリックはそれぞれによく案出してあるし、あたりまえの話だけどストーリーも一作ずつ違う、プロットも別物だ。問題は書きぶりである。

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たとえばこの「京都茶道家元殺人事件」は、名門の茶道の家元が殺害され、あとを追うように血縁者が次々と殺されてゆく連続殺人ものなわけだが、誰がどこで毒を飲まされて殺されたといった事実描写以外は、ほとんどああでもないこうでもないという推理の試行錯誤を会話文に仕立てた読み物に終始している。

陶然登場人物にキャラクターはない。人物Aと人物Bの違いは見極めがつかない。

つまり「小説になっていない」ところが「ほぼいっしょ」感を生み出すのだと思う。

ところがこれが読みやすいのだ。

まず、事物のもつれた関係や余計な情念に惑わされることがない。いまどの犯行のなにが問題になっているか迷いようがない。推理の筋道がこれ以上ないくらいはっきりと分かる。

山村には「燃えた花嫁」という初期作品がある。こちらは人物の書き込みも、読者へのニセの手ががりいわゆるレッド・ヘリングもちゃんと用意してあり、ヘンないい方だが「普通の推理小説」の体をなしている。これを見る限り、山村は書けなかったわけではないのだ。そうは書かなかったのだ。

私は山村が早い段階から、テレビ化への戦略を練っていたんだと値踏みする。テレビを真剣に観ているものはいない。テキトーな気持ちで眺めている。そんな状態でも、へたしたら途中30分くらい寝ちゃっても筋が分かる。そのように書いたのだと信じる。テレビが山村を見つけたのではない。山村がテレビを見つけたのだ。

ぜひ本書「京都茶道家元殺人事件」をスイスイ読んでから、いっそうテレビのサスペンスをお楽しみいただきたい。ちなみにテレビでは希麻倫子ということになってる名探偵カメラマンは、ほんとはキャサリン・ターナーという元アメリカ副大統領の娘で、本書で大活躍である。