日本をこよなく愛するドナルド・キーンさんのエッセイ集

小説・エッセイ

公開日:2012/4/27

碧い眼の太郎冠者

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:ドナルド・キーン 価格:378円

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東日本大震災を機に日本に永住することを決め、日本の国籍も取得したドナルド・キーンさんのエッセイ集「碧い眼の太郎冠者」。巻末に記されたあとがきの日付は昭和31年9月。そして、その後に続く、再刊のあとがきの日付は昭和47年12月と、大変古い本です。

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再刊のあとがきで著者は、「この本の中にある論文を現代化することは不可能だろうが、現代の事情に少しでも通ずるところがあれば、何よりなことだと思う。」と語っていますが、再刊から40年近くたった現在読んでみても、単に、当時の著者の目を通した日本にまつわる記述が興味深いだけではなく、自国や他国を理解する上でのものの見方という点で、現代に通じるところがあるように思います。

本書のいくつかの章で、著者は、「風浪」(木下順二著)や「若人よ蘇れ」(三島由紀夫著)等の書物を取り上げて評論し、また、他の章では、自らが訪れた土地の感想を記しています。日光、松島、京都、四国巡りと、日本をこよなく愛する著者による紀行文は、日本の良さを再発見するようで心地よく感じられ、当時の日本人の持っていたおもてなしの心に触れることができる点でも興味深いです。

私が特に興味をそそられたのは、おそらく本書のメインの部分ではないのですが、ヨーロッパとニューヨークを扱った章です。日本に2年間滞在した後に、ヨーロッパを数カ国訪れた著者は、ヨーロッパ的なものの美しさや価値を理解しつつも、日本を懐かしみ、「今は、私にとってバイロンの像よりも芭蕉の像のほうが見て感激するし、ケンブリッジの無数のバラよりはるかに京都の新緑が深い印象を与える。」と語っています。

こういった古い本も手軽に入手できるのが、電子書籍の良さのひとつでもありますね。本書を読んでいて、この本が刊行された当時の日本人ほどではないにしても、外国や外国人、未知なるものへの先入観というものを我々は常に持っているのだなぁと、今さらながら、そんなことを感じました。


序文は谷崎潤一郎氏によります。再刊のあとがきで著者は、15年という年月を振り返り、谷崎潤一郎氏がすでに故人になられたことに触れています

「外人への先入観に抗議する」という章で著者は、「西洋人はみな巨人だという先入観」について語っています