お前は搾取されている――闇金ウシジマくんとホリエモンに学ぶ「奪われる側」にならない方法

暮らし

公開日:2019/6/25

『ウシジマくんvs.ホリエモン カネに洗脳されるな!』(堀江貴文/小学館)

「世の中は奪い合いだ。奪(と)るか奪(と)られるかなら、俺は奪る方を選ぶ!」

 これは『闇金ウシジマくん』の主人公・丑嶋馨(以下ウシジマ)が第1話で自分に言い聞かせるように放った言葉だ。著名な経営者の1人、堀江貴文さんは本作の長年の愛読者で、このセリフを見たときすぐに「マルクス経済学」の基本概念に思い及んだそうだ。

 マルクス論では、生産手段を持たない労働者などが作りだす商品やサービスの一部を、資本家が無償で取得することを「搾取」と呼ぶ。ウシジマくんのセリフには闇金の経営者という金儲け的な一面だけでなく、「人生のあらゆる立場で搾取する側になる」という強い意志を感じる。

 政治に不信感が増し、社会にブラック企業が蔓延し、ややこしい人間関係に疲弊し…。今、日本では「奪る側」と「奪られる側」が明確になりつつある。誰だって「奪られる側」にはなりたくない。

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『ウシジマくんvs.ホリエモン カネに洗脳されるな!』(堀江貴文/小学館)は、『闇金ウシジマくん』のさまざまなシーンを題材に、なぜ世の中の人たちがいとも簡単に「奪られる側」に回ってしまうのか、堀江さんが解説する。さらに「奪られる側」から抜け出すメソッドも説いており、これからの時代を強く生きる指南書と呼べるだろう。

■何者にもなれていないから会社員という立場だけは守りたい

 本書の序盤から堀江さんは手厳しい。「会社を辞められないのはプライドが高いから」と断言している。『闇金ウシジマくん』の「中年会社員くん」編は、企業社会とサラリーマンの最も嫌な部分を描いたものだ。

 このエピソードに登場する中年サラリーマンは非常に分かりやすい社畜で、自らの思考停止によって人生が追いつめられていく。さらに身内同士で足を引っ張り合い、さっさと辞めてしまえばいいのに「サラリーマンの世界だから仕方ない…」と諦めて、会社に残り続けようとする。堀江さんにはこの精神構造が理解できないそうだ。

 雇われている側は、自分の頭で物事を判断する能力が奪われやすい。一応は毎月給料がもらえ、ローンも組めて、社会的信用もまあ保証されている。さらには「辛い環境に耐えている自分」に誇りがあり、辞めたら負けだと思い込もうとしている。

 会社員という肩書を捨てて生きる自信がないことに加え、「社会的に認められている存在」というプライドが邪魔をして、転職や独立などの行為に踏み出せないでいるのだ。「中年会社員くん」編にこんな印象的なセリフがある。

「何者かになるために会社に入ったのに何者になりたいか分かっていなかった…」

 まさしくサラリーマンが陥りやすい思考を端的に言い表している。何者にもなれていないから、会社員という立場だけは守り抜きたい。その我慢強さを、プライドだと思い込んでいる。

 堀江さんは本書で「もし自分が満足できない、納得できない環境の会社に勤めているなら、辞表を出せばいい」と言い切る。さらに「人生で成功しやすい人」のヒントとして、サラリーマンにありがちな小利口ではなく、「プライドの低いバカ」になればいいとアドバイスを送る。

■物事を知らない真面目な人は搾取される

 もう1つ本書のメソッドをご紹介したい。社会人が苦境に立たされるパターンで一番多いのが金にまつわる問題だ。『闇金ウシジマくん』の登場人物たちのように、無計画な金遣いや他人に騙されるなどして借金を背負い、人生が破たんしていく例は稀なように感じる。しかし決して他人事じゃない。誰にでも起こりうることだ。

 堀江さんが聞いた話によると、出勤するときに車をガードレールにぶつけて、行政から修理代として100万円を請求されたOLがいたそうだ。彼女は返済するためにソープランドで働くことにしたという。また東日本大震災の被災地では、地震で屋根の瓦がすべて落ちて、怪しい瓦業者のローンに騙されて300万円の借金を背負ったという話も。

 とても悲運なエピソードだが、堀江さんはこれを聞いてため息が止まらないという。「どうして払わなくちゃいけないのだろうか?」。そんな言葉が本書で飛び出している。

 いくら修理代で返済義務を負っても、100万円単位のお金になるのはおかしい。何か誤魔化されているはずだ。理屈の通らない額の借金を押しつけられても、返さないといけない道理はない。万が一正当な負債を背負ったとしても、返済能力を超える額ならば自己破産してしまえばいい。なにもソープで働く必要はないし、ましてや絶望して自殺しなくてもいい。本書に堀江さんのこんな言葉がある。

私から言わせれば、物事を知らなすぎる。もしくは真面目すぎる。
借金は何が何でも絶対に返さないといけない、返すのが人の道だという、間違った観念にとらわれているのだ。

 本書の挿絵には「最初に借りた金は10万円だったのに、相手の言うまま何も考えず5千万円もの利息を払い続ける客」の姿がある。堀江さんの一言がいやでも頭に響く。もし私たちがお金に困ったときは、ウシジマくんのこの言葉を思い出したい。

約28円。金は価値と交換できる引換券だ。金自体に価値はねえよ。

 一万円札の原価は約28円。しかし一万円札には一万円の価値がある。これは日本人の誰もが「一万円札には一万円分の価値があって、この紙幣を使えば全国共通で同額の何かができる」という信用を持っているからだ。つまりお金は信用を数値化したもの。

 信用を数値化した紙幣に困ったときは、紙幣を集めようとするのではなく、周囲からの信用を集めることに腐心したい。信用があればいくらでもお金が借りられる。信用があればビジネスを任せてもらえる。お金に困っている人は、周りから信用がなくて困っている人なのだ。

 本書はこのように、『闇金ウシジマくん』のシーンを題材に、なぜ世の中の人たちがいとも簡単に「奪られる側」に回ってしまうのか解説する。さらに「奪られる側」から抜け出すヒントも説く。

 悲惨な運命に落ちていった登場人物たちを見て「かわいそうだね~」で終わってしまうのはダメだ。いかに自分事ととらえ、どのように人生の危機を回避するかしっかり考えなければならない。その意味で本書はまさしく指南書といえるだろう。

文=いのうえゆきひろ