ギターのなかに住む兄弟の“ちょうどいい”おはなし
公開日:2012/5/8
2010年のiPad発売以来、絵本アプリも相当な数がリリースされているかと思います。
私自身も絵本アプリの企画に携わることもあり、それなりにいろいろな作品を拝見しています。その際に、よくできているなぁと感じる作品に共通するのは「やりすぎない」という点。もちろん、他にもチェックポイントはあるんですが、この「やりすぎない」というのはかなり重要な点ではないかと思います。
「デジタルの特性を活かす」
絵本アプリの作り手の多くが掲げるテーマだと思います。音声やアクションを組み合わせ、紙の絵本では表現できない面白さをどう出すのか、絵本アプリ制作の醍醐味であり、一番心を砕く部分ではないでしょうか。
ただし、この思いが強すぎると逆に墓穴を掘ることになりかねません。想像力が豊かで優秀な作り手ほど、この深みにハマりやすいともいえます。あれやこれや詰め込みすぎて、超リッチなアプリになってしまうんですね。それ自体は悪いことではありませんが、果たしてそれが読み手にとっていいことなのかどうか。冷静に判断しなければなりません。
大事なのは「こどもが無理なく楽しめるか」だと思います。もちろん、対象年齢をいくつに設定するかによって、その度合いは変わってくるのですが、あまり複雑に作りこんでしまうと、こどもが使いこなせなかったり、読み進めることを邪魔してしまったりする可能性があります。
さて、やっと本題。
そういった意味でこのiPad向け絵本アプリ「マルコとちいさな兄弟」は、ちょうどいい仕上がりなのではないかと思う次第です。ちょうどいいなんて大分ザックリした表現で申し訳ないのですが、そこは本作をご覧になればお分かり頂けるかと思います(お金かかりますけど)。シンプルな仕掛けもさることながら、途中途中で文章だけのページを挟んでおり、テンポ良く読み進められるちょうどよさがこの作品にはあります。
そんなわけで、というわけではないのですが、お父さんやお母さんにお願いがひとつ。ぜひ読み聞かせをしてあげてください。もちろんショピン・野々歩さんによるナレーションも素晴らしいのですが、各ページの仕掛けをお子さんと一緒に探しながら物語を進めていくのがオススメの楽しみ方です。
では最後にあらすじを紹介しておきましょう。
本作は、楽器屋の主人・マルコとギターの中に住むちいさな兄弟、兄のニコラと弟のトマのお話。マルコの楽器修理の腕を眺めるのが大好きだったニコラとトマは、せっかくマルコが修理した楽器を再び壊してしまうのでした。兄弟の仕業だと気づかないマルコは、自分の腕の衰えのせいにして店を閉めようと考えます。その頃、街を訪れていたサーカス団には、団長のラッパが壊れて猛獣ショーができなくなってしまうというハプニングが起こります。その噂を聞きつけた兄弟は、自分たちがラッパを修理しようと試みるのですが…。
親子で楽しんでいただきたい作品です。
お話と絵は、ひだかきょうこさん。素朴な作風ですね
ギターのなかに住むニコラとトマの兄弟。ギターの弦を弾くと音が鳴るという仕掛けが施されています
バイオリンの修理をする兄弟。こちらでは、バイオリンに色を塗ることができます