「何故、山に登る?」「そこに山があるからじゃない。ここに、おれがいるからだ」

小説・エッセイ

公開日:2012/5/11

神々の山嶺〈上〉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:夢枕獏 価格:702円

※最新の価格はストアでご確認ください。

「そこに山があるからじゃない。ここに、おれがいるからだ。ここに、おれがいるから、山に登るんだよ」

「これしかなかった。他の奴等みたいに、あれもできて、これもできて、そういうことの中から山を選んだんじゃない。これしかないから、山をやっているんだ。他にやり方法を知らないから、これをやっているんだ」

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ジョージ・マロリーの名前は知らなくとも、「そこに山があるからだ」という言葉は誰しも耳にしことがあるでしょう。1924年、エベレスト登頂を目指して頂上付近で行方不明になったマロリー。遺体が発見されたのは75年後。果たして彼は世界初のエベレスト登頂を成し遂げることができたのか? 『神々の山嶺』の軸になっているのは、この山岳史上最大の謎です。

物語の語り手はカメラマンの深町。
ネパールでマロリー登頂の謎を追いかける深町は、その過程で天才クライマー羽生丈二という男に出会います。人生のすべてを山に賭け、日本から行方をくらました彼はネパールで何を成し遂げようとしているのか?

この小説の最大の魅力は、何といっても羽生丈二という強烈なキャラクター。
登山に興味がなくても、冒頭に挙げた羽生の台詞にはグッと心を掴まれる人は多いのでは? 何かひとつのことにすべてを賭ける天才の生き様というのは、峻烈で愚直でアンバランスなもの。が、私たち凡人はそんな姿に畏怖を覚えながらも憧憬を抱かずにはいられません。

深町の目線で羽生を追いかけるうちに、読み手は「なぜ山を登る?」という問いが「なぜ生きる?」と同義だということに気付くでしょう。ジャンルとしては山岳小説ですが、ミステリーの要素も強いのでエンタテイメント性もたっぷり。

ちなみにこの小説は谷口ジローによって漫画化されていますが(こちらも傑作!)、スピンオフ作品を収録した『呼ぶ山 夢枕獏山岳短篇集』もこの春刊行されたばかり。羽生の生き様に魅せられた人はぜひこちらも手を延ばしてみては?


気になる単語は「コピー」「辞書」「マーク」「Web検索」の四択が可能

巻頭には舞台となるネパールのMAP付き

途中で横書きに変更することもできる