林真理子の円熟期に触れる

小説・エッセイ

公開日:2012/5/11

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ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:林真理子 価格:658円

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久々に林真理子を読もうと思ったのは、作家の円熟の時期の作品をまるで読んでなかったからです。
54年生まれの彼女もそろそろ60代。信じられないなぁ。この作品の紙書籍は2007年に出版されているので、作家53歳のときの執筆。「ルンルンを買っておうちに帰ろう」で一世(こと、女性)を風靡した彼女は、現在の40代、50代女性にとっては文学界の松田聖子的存在だったもの。ananが林真理子の描く世界の代名詞だったなぁ。とにかく当時は彼女の記事やエッセイ、作品を毎日のおやつのようによく「消費」したものです。

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彼女の描く世界と女性の現実感と普遍性には、あまりに私たちにぴったりとしすぎ、人ごととは思えず、毎日食卓を一緒に囲んでいるような度を越えた親近感がなかったでしょうか。そんなことを思い出しながら、1156ページのこの作品を一気に読みました。小学館の電子書籍は読みやすい。1156ページをIPHONEで繰るのもまるで苦になりません。その内容の面白さも手伝ってあっという間に読了。

主人公は「お局」の年に差し掛かっている、大手商社のOL奈央子。「anego」の表題通り、後輩から頼られる世話上手で、アフター5には合コンに参加し、年に何度か同僚たちと海外旅行もできる身分。高給取りで一人暮らし。時々寝るオトコにも事欠かず、都会の醍醐味を満喫しているかのような彼女ですが、結婚市場には完全に乗り遅れていることが目下の悩み。結婚という形式とステイタスにがんじがらみになっていて、新しい男性が現れても値踏みしてしまう。恋愛結婚に憧れながらも、打算と人生ゴールまでの計算に埋め尽くされているクールな頭とは裏腹に、人忍ぶ恋に落ちてしまうあたりから、話が本格的になってきます。

冒頭から始まる「お勤め女の世界」になぜか光源氏を取り巻く女性たちを思い出してしまったのは、狭い世界に集まる女性の性質・性格・特徴を見事に描いているからでしょうか。作家の技量の際立つところは、同性に対するこの客観的な分析力と、描写力。かつて女子大生のキャピキャピ感に専制をかけながらも時代の高揚感を煽ってくれた軽快な文章は、執筆当時に確実に熟していると伺えます。

彼女こそ、いつも隣の「姉御」的イメージをまとっていたけど、後半に渡って展開される内容の濃度は、「熟してきた」ことがひしひしと伝わる。読みやすく、文芸技巧に優れているようには見えないのに、正しく美しい筆運び。不倫が泥沼化してゆくという、あまり楽しめない内容ではありましたが、作家の息の長さと人気の秘密を改めて認識した読書となりました。この本を読んだ同士でディスカッションしたら、盛り上がること間違いなしです。


林真理子の作品はいつも「オトコとオンナ」の考察に満ちあふれ

「親と子」の関係についても、普遍的なところをぐぐっと突いてくる

世の中の30代女性でなくとも、日常のふとした場面でこんなこと考えますねぇ (C)Mariko Hayashi 2011