障害者手帳の交付要件と障害年金の受給要件などを解説する『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて』

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公開日:2019/10/4

『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて』(渡部伸:監修/自由国民社)

 生まれた我が子に障害があるとき、どうすればいいだろう。たとえ健常者じゃなくても楽しく生きる方法はある。幸せを体現する家族がたくさんいる。そのためにまず気にするべきは、幸せになるための環境を整えることだ。行政が展開する公的な支援や福祉サービスを知り、上手に活用して、精神的・肉体的負担を少しでも減らしたい。

『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて』(渡部伸:監修/自由国民社)は、タイトルの通り、障害者の年代やシーンごとに受けられる支援を一挙に解説する。この記事ではそのごく一部を引用して紹介するので、「この本、使える!」と感じた読者はぜひ手に取って、障害者支援をフルに活用してほしい。

■障害が疑われたらどこに相談すればいい?

 子どもの健診で障害が疑われた場合、診断によっては診察した医師から専門医を紹介されることがある。しかし健診でなくても、日常生活の中でコミュニケーションがうまく取れなかったり、視線を合わせられなかったり、成長とともに気になることが出てくることもある。

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 そのようなときは次回の健診を待たず、身近な相談窓口を利用しよう。乳幼児期に現れる障害は、早期発見によって症状が軽減されるケースも少なくない。

 障害が疑われた場合、健康や育成について幅広い相談ができるのが、児童相談所や保健所だ。児童相談所は18歳未満のすべての子どもを対象にしており、障害のある児童だけでなく一般的な健康相談にも応じてくれる。また発達障害については、発達障害者支援センターで専門的な相談ができる。

■身体障害者手帳の交付要件は?

 身体に障害がある子には、身体障害者福祉法に基づき「身体障害者手帳」が交付され、各種の福祉サービスが受けられるようになる。手帳の交付対象となる障害は、視覚、聴覚または平衡機能、音声・言語機能またはそしゃく機能、肢体不自由、免疫や臓器の内部疾患がある。いずれも一定以上の障害が永続することが要件だ。

 また障害には等級があり、1級に近づくほど重度、7級に近づくほど軽度となる。交付の対象は、6級以上の障害または2つ以上重複する7級以上の障害からだ。さらに障害が永続的に継続することが条件のため、乳幼児期は認められないケースがあるので、医師や保健所のソーシャルワーカーに申請の時期を相談しよう。

 手帳の申請は市区町村の窓口で行い、申請後1カ月を目安に交付される(交付自治体によって異なる)。窓口で用意された「交付申請書」と「診断書」を取得する必要がある。

■知的障害者の療育手帳の交付要件は?

 知的障害が見られる子には、各種の障害福祉サービスを利用できる「療育手帳」が交付される。手帳は市区町村の窓口で申請ができ、18歳未満の場合は「児童相談所」、18歳以上の場合には「知的障害者更生相談所」で障害の程度などの判定を受けられる。

 身体障害の場合と違い、申請時に医師の意見書などは不要。そのため乳幼児期から知的発達の遅れが顕著な場合は、子どもの自立を図るために早い時期から申請を検討しよう。また申請は市区町村によって手順が違うので、まずは障害福祉の担当者に相談しよう。

 療育手帳は各都道府県によって運用の仕方が異なるので、名称、障害の等級、判断基準がそれぞれ違う。交付の目安は、18歳未満に発症し、知能指数(IQ)がおおむね70以下であること。また知的障害は成長にともなって障害の程度が変わる可能性があるので、再判定が必要になる。2~5年ごとの再判定を行う自治体が多い。

■障害者手帳はどんな福祉サービスが受けられる?

「身体障害者手帳」や「療育手帳」といった障害者手帳を取得すると、障害の程度、年齢、受給者や扶養者の所得など一定の条件を満たした場合、「特別児童扶養手当」「特別障害者手当」などが受給できる。また一定の条件を満たせば、都道府県や市区町村が実施する「障害者医療費助成制度」を活用できる。さらに税金の控除・減免もできることがある。

 このほか身体機能の障害を補う補装具や特殊ベッドなどの日常生活用具が1割負担で利用でき、重度障害者の住宅改造費の補助や公営住宅への入居が有利になることがある。

 公的な支援だけでなく、各交通機関の利用料や通行料の割引、NHKの受信料の全額・半額免除、携帯大手3社の電話料金の割引、博物館・美術館・映画館などの入館料の割引など、民間の支援も受けられる。

 さらに障害者総合支援法に基づく「介護給付」「訓練等給付」「相談支援」「自立支援医療」「補装具」などの福祉サービスも利用可能となる。

■障害年金の受給要件は?

「障害者手帳」とは別に利用を検討したいのが「障害年金」だ。両者はまったく別の制度で、手帳の有無にかかわらず、受給できる可能性がある。障害年金を受給するためには「3つの要件」をすべて満たす必要がある。

【①初診日要件】

 障害の原因となった病気やケガで、初めて医師などの診療を受けた日に、公的年金に加入していたこと。

【②保険料納付要件】

 初診日の前日まで、保険料納付期間及び保険料免除期間が一定以上あること。

【③障害状態要件】

 障害の認定を行う日(原則、初診日から1年6カ月を経過した日)に障害の等級に該当していること。

 ただし「20歳前の障害基礎年金」の場合、初診日が20歳前にあることが要件となる。その代わり公的年金の加入義務がない年齢なので、保険料納付要件は問われない。

■障害年金の受給額は?

 障害年金は、その症状が一番重いものを1級、次に重いものを2級という。障害基礎年金、障害厚生年金とも等級の認定は同じ。障害厚生年金の場合はさらに3級と障害手当金(一時金)がある。

 障害認定基準は、おおまかにいえば、常に誰かの援助がなければ日常生活を送れない場合が1級、日常生活に大きな支障が出ている場合が2級となる。

 障害年金は老齢年金と異なり、非課税である。障害基礎年金の受給額は、2級が780100円(平成31年度)。1級はその1.25倍と決められていて975125円。年金額は物価変動などによって毎年改定される。また18歳到達年度末の子(障害の子は20歳まで)がいる場合、加算額がつく。

 障害厚生年金は、給与や賞与の額などで納める保険料が変わるため、受給額も平均給与や加入した月数によって個々に違う。また配偶者がいると条件により加給年金がつく。

■障害があっても就職を目指す職業訓練

 障害があっても就職ができるよう、専門的な知識や技術を訓練する場があり、ハローワークが窓口となって紹介している。それぞれ障害の特性を活かした訓練コースが用意されている。

【障害者職業能力開発校】

 都道府県が運営・設置する学校。全国に点在している。訓練コースやカリキュラムは学校によって異なる。

【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する障害者職業能力開発校(国立職業リハビリテーションセンター)】

 全国で埼玉県と岡山県の2校だけしかない、独立行政法人が運営する障害者職業能力開発校。先導的な職業訓練を実施している。

【一般の職業能力開発校】

 精神障害や発達障害などのある人を対象とした職業訓練コースが設置されている。

【委託訓練】

 企業、社会福祉法人、NPO法人、民間の教育訓練機関などを活用して訓練が行われる。

 このほか雇用を前提として、6カ月間企業で作業を行う「職場適応訓練」という制度もある。実際に働くことで職場に適応しやすくなることが目的だ。2週間以内の短期職場適応訓練もあり、どちらも訓練手当が支給される。

 ここまで本書より、多くの人が気になる福祉サービスのおおまかな概要を紹介した。本当にごく一部なので、詳しく知りたい人は本書を手に取るか、自治体の窓口に相談することをおすすめする。

文=いのうえゆきひろ