それは3人のアドルフについての物語…
公開日:2012/6/3
アドルフに告ぐ (1)
ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android | 発売元 : 手塚プロダクション |
ジャンル:コミック | 購入元:eBookJapan |
著者名:手塚治虫 | 価格:324円 |
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ワグナーの肖像に隠された謎、芸者殺人事件、在日のユダヤ人と日本人とのクォーターのドイツ人、そのちりばめられた手がかりを追って新聞記者の峠草平は人生を狂わされていく。
第一次世界大戦後のドイツではご存じの通り、アドルフ・ヒットラー率いるナチス党がドイツでの第一党として第二次世界大戦の収束まで実権を握っていたわけですが、そこで起きたのはユダヤ人の徹底した虐殺でした。そこに「もしもヒットラーにユダヤ人の血が混じっていたら」という好奇心をかきたてられるエッセンスを垂らすとどんな科学反応が起こるのか。
僕はそのアイデアに一本釣りされる形で一気に読んでしまいました!
事はヒットラーがユダヤ人であるとの手紙の存在が日本へと渡ってしまったことから物語は始まるのですが、どうもどうもさすが「漫画の神様:手塚治虫」ですね。すでに氏は漫画におけるミステリー的な足運びで物語を組み立てる手法を使っていたようなんですよね。しかもそれがしっかりとした大河モノになっているんです。
これは今で言う「MONSTER」や「二十世紀少年」などでおなじみの浦沢直樹氏の綴るストーリーテリングと僕の中では被るものがありました。手塚氏の手法をどこか参考にしているような節がありましたが、真相はどうなのでしょうね。
実は僕は本書を皮切りに後の巻も自分で購入して全部読んでしまったのですが、氏の手がけるジャンルの広さには舌を巻くばかりです。どちらかといえば「鉄腕アトム」をはじめとした子供向けなイメージが先行してしまいがちですが、氏はどの年齢の層にも読み物として耐えられるものを残していかれたことに感動しました。「差別と排斥」や「戦時中の苦悩」、「大人の色恋」、「洗脳の怖さ」、そのどれもテーマとしてが詰まっていて考えさせれて、そして納得のいく結末を用意してくれる。そんな物語にはなかなかお目にかかることはできません。
しかし僕の中では本作はそんな数少ない名作のひとつとしてずっと大事にしていきたい、すばらしい作品となりました。戦争の不条理さはいつの世も普遍的なテーマなんでしょうね。
ベルリンオリンピックのさなかに裏ではとんでもない動きがあった
峠草平は男気あふれる、さっぱりとした性格でとても親しみが持てます
手塚氏の描くヒットラーです、何とも似てますよ
「ヒットラーはユダヤ人である」との手紙が多くの人の人生を狂わせます
ユダヤ人とドイツ人の友情は、後に悲劇的な結末を迎えてしまうのです (C)Tezuka Productions