新幹線の運転士。知られざるプロフェッショナルの世界には驚きがいっぱい!

更新日:2012/6/14

新幹線を運転する

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:早田森 価格:668円

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私は別に鉄道マニアではないが、新幹線は好きだ。理由は単純で、自分が1964年生まれ、つまり新幹線と同い年なので一方的に親近感を感じているという次第。本書で紹介される木内辰也さんも同じ1964年生まれの新幹線好きである。しかし格が違う。木内さんは「最も優秀な運転士を選ぶ」というJR東海の社内コンテスト優勝者、プロ中のプロの、新幹線の運転士なのだ。

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本書は現役新幹線運転士を取材し、彼が語った「新幹線運転士の技術と生活」をまとめたルポルタージュである。出張や旅行の足として当たり前のように使っている新幹線だが、運転士というのがどれだけものすごい仕事なのか、本書を読むまでまったく想像したことすらなかった。たとえば、東海道新幹線の平均遅延時間は0.5分なのだそうだ。つまり30秒である。それはもう誤差の範囲ではないのか。

それで驚いてはいけない。なんとなれば運転士の行動は15秒刻みでコントロールされているというのだから。普通、我々が使う時刻表は11:45発、などと書いてある。ところがJR内部の時刻表は、11:45:15発だったり、11:45:30発だったりするというのだ。そしてその通りに発車する。なんなんだそれは。その上で許される誤差はプラスマイナス15秒だというからビックリ。しかも「10秒以上ずれることはめったにない」というからさらにビックリ。木内さんは完全に時間を読むくせをつけてしまっていて、出勤のため自宅を出るのは最寄り駅の電車発車時刻の21分前だという。20分じゃダメなのか。

そんな運転士の「特殊能力」の紹介に驚かされ、運転席から見える風景の話(風景は景色ではなく知識だというのは名言)、一般人が入ることのできないドクターイエロー(保守作業用車両)や車両基地、運転士たちの基地とも言える東京第一運輸所(なんと部屋の片隅にプラレールが置いてあるという。遊びじゃないよ仕事に使うんだよ)の話、そして運転士の目から見た0系からN700系までの各新幹線の特徴など、どの章を読んでも新鮮な驚きと刺戟的な情報に満ちている。鉄道マニアならずとも、ひとつのお仕事裏側情報としてとても興味深い。

  

ここにあるのは仕事が好き、新幹線が好きという思いだが、それ以上に木内さんの責任感に心打たれた。昔は「技術は盗むもの」とされ、先輩運転士が運転するのを脇で見て一生懸命に覚えたものだが、教えられるものはどんどん教えた方がいいしデータベース化すればもっといい、知識や伝統を継承するためにできることがあれば積極的に関わっていきたい、と先を見つめる。そして彼は言う。運転士という仕事は「常に○か×かの世界で、そのあいだはない」と。一瞬の判断ミスや迷いが大惨事につながる、時速250kmで多くの人命を運んでいる現場ならではの厳しい言葉だ。

日本の大動脈は、こんなプロフェッショナルたちに支えられているのだと、あらためて彼らに感謝したくなった。次に新幹線に乗るときは、きっとこれまでとは違った気持ちになるだろう。ここに紹介されたエピソードをひとつひとつ思い出しながら、旅を楽しみたい。


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