魔王と勇者が互いに所有契約を結び、経済学で平和な世界の到来を目指す超異色作

ライトノベル

更新日:2012/6/19

まおゆう魔王勇者 1「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA / エンターブレイン
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:橙乃ままれ 価格:900円

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「もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを おまえにやろう。どうじゃ? わしの みかたに なるか?」
「はい」or「いいえ」

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ここで「はい」を選ぶと事実上のバッドエンドになり、「いいえ」を選ぶと「おろかものめ! おもいしるがよい!」と怒って襲いかかってきます。

これは、人気RPGドラゴンクエストシリーズの記念すべき1作目でラスボスを務める竜王とのやり取りなのですが、ではラスボスが美しい女性だったらどうか。
武力は低く、魔力もラスボスにしてはひどく弱かったらどうか。

「この我のものとなれ、勇者よ」
本作でのラスボス的立ち位置である魔王は、冒頭に対峙して早々、勇者に提案してくるが、これは前述の竜王のような甘言やワナではなく、互いを互いに所有する契約を結びたい、ということ。
つまり、「魔王」が「勇者」の所有物に、「勇者」は「竜王」の所有物になる、ということ。

とまどう勇者は「断る!」ものの、経済を専門とする魔王に「経済的視点から見た巨大消費市場としての戦争の効用」や、今の世界の有り様を半日ほど聞かされた結果、2人で、一方的な武力制圧ではない戦争の終わりと平和な世界の実現を目指すことになるのです。
ズバリ副題は「魔王と勇者が手をたずさえて 暗黒の中世に灯をともす物語」。

このように、「剣と魔法のファンタジーRPGの世界をパロディ化したものか」と安易に本作を紐解くと面食らうこと請け合いですが、新奇な点はさらにあります。

(1)戯曲形式…なんと99パーセント以上が会話文。

(2)登場人物には固有名詞(名前)がなく、「魔王」「勇者」「メイド長」「女騎士」「青年商人」などと役柄で呼ばれる。

(3)前述のとおり、正義が悪を倒す勧善懲悪物語でない。戦争という巨大市場がすでに社会に深く取り込まれているためである。魔王と勇者が組んで、一方が他方を完全制圧するという結末とは違う何かを見つけるために悪戦苦闘する。

(4)魔王と勇者のほかに控えている脇役たちがどんどん成長し、活躍を見せる。

…以上は、じつは巻末でデームデザイナーの桝田省治氏が挙げているもの。
桝田氏は「俺の屍を越えてゆけ」や「リンダキューブ」など、アクの強いゲームを作るクリエイターで熱狂的なファンを抱えますが(私もその1人です)、氏はネット掲示板に投稿されていた本作を書籍化しようといいだした「書籍化プロジェクト」の発起人。
そう、本作はもともとネット掲示板で話題になっていたところを、トップクリエイターたちによって書籍化された異色作でもあるのです。

マネジメントとからめた『もしドラ』や、経済をからめた『狼と香辛料』など、実用入門書的な側面を兼ね備えた小説が人気を集めていますが、その中でも異彩を放つ本作の唯一無二な世界を覗いてみてください。


長い冒険を経て、クライマックスで魔王の味方になる。ゲームファンなら好奇心から一度は「はい」を選択し、後悔したことがあるでしょう。この交渉から、本作はスタートします

「なんだよこの魔王」とでも言いたそうな勇者だが…

冒頭の「『まおゆう』って、ようするにこんな話。」で全体像を掴んで、本編に突入しよう

出会ってまもなく、魔王(女性)からトートツにまさかの告白。「勇者が好き」

経済を専門とする魔王が考える「提案」とは…?

章ごとに、経済や社会などの専門用語等の理解を深める「(魔王による)かいせつ」が入る。中世ファンタジーストーリーを楽しみながら、経済等の基礎も学べる

中盤の、このあたりのシーンがとても印象的で、しばらく絵に見とれていました。左が魔王で右が勇者。いい雰囲気ですなあ。ちなみに、ピンチインでやや拡大しています。じっくり絵を楽しみたい人は電子書籍ならではの機能をうまく活用して、十二分に堪能していただきたいです