何故主人公の周りで事件が起きるのか。推理モノのジレンマに切り込む異色作

ライトノベル

更新日:2012/6/19

ゲンジ物語 ACT1:蝶の葬送

ハード : PC 発売元 : POPノベルス
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子書店パピレス
著者名:天樹征丸 価格:315円

※最新の価格はストアでご確認ください。

名探偵が現れたら、そこで誰かが死ぬ―――。

advertisement

ミステリーを愛好する人なら、一度は考えたことがあるはずです。何故、探偵は殺人事件にやたら遭遇するのかと。
普通生活をしていて、そうそうあることではありません。いや、もう無いといってもいいくらいの確率でしょう。
例えばアニメ名探偵コナンは毎週放送していますが、週1での遭遇なんて、警察官でも常軌を逸しているのではないでしょうか。
人気で、長編物になるほど仕方のないジレンマですが、探偵に近しい人物などは、遺体に慣れてもおかしくない程の数だったりして、発見の度に律儀に悲鳴をあげるのも、なかなか大変な仕事かもしれませんね。(蘭ねぇちゃんとか…)

―と、そこへ敢えて切り込んで行ったのが本作。なんと冒頭1発目で…

「あたしの周りでは、よく人が死ぬ」

というモノローグが入るのです。実に潔い!
本人が公言するだけあって、美少女ゲンジの周りには、死を求める人や、死に魅入られた人、あるいは死にゆく人が、どこからともなく寄ってきます。彼らが、というよりはむしろ、ゲンジ自身に死が絡み付いているように…。
猟奇を帯び、尋常ならざる事件の数々に翻弄されながら、ゲンジは忘れられた過去と死に付き纏われる真相を辿っていきます。

事件自体は中々のサイコ具合ですが、終始ドライな目線で描かれているせいか、さっぱりとした口当たり。
テンポもとても現代的で小気味良く、物語全体にシニカルな雰囲気が漂っています。強烈な異常者というよりは、“普通に居そうな変な人たち”が織り成す死のドラマは、平板的で不思議な現実味があります。
個人的にはゲンジのいかにも血圧の低そうな、主人公なのに斜に構えているキャラクターも魅力的。
物語の進行に対して、前向きどころか後ろ向きで、死体にも割合慣れっこで、悲鳴なんかほとんどあげない彼女でもって、独特なサイコサスペンスは成立するのです。

ミステリーが孕む名探偵現象(命名)を逆手に取って、見事に構築された本作。
大ヒットミステリーを多数世に送り出した、著者ならではの妙を是非ともご覧あれ!


なんだってーーーっ!

イラストはなんと田島昭宇先生!!

のっけからSッ気だしまくりのゲンジさん