文化祭で文集200冊を売り切れ! 楽しくも切ない古典部シリーズ第3弾

小説・エッセイ

公開日:2012/6/28

クドリャフカの順番

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:米澤穂信 価格:651円

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いよいよ始まった神山高校文化祭、通称「カンヤ祭」。しかし古典部メンバー4人はヘコんでいた。なぜなら販売予定の文集の刷り部数を間違え、大量200部が納品されてしまったのだ。とてもさばける数ではない。古典部員たちはそれぞれの方法でなんとか売り切ろうと奔走するが、そこに謎の連続盗難事件が起きて──。『氷菓』『愚者のエンドロール』に続く古典部シリーズ第3弾。

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シリーズの中で最も趣向に満ちた、楽しい作品。文化祭が舞台で各サークルの演し物は面白いし、最大のミッションは「200部売り切れ!」だし、起こる事件も「各クラブから変なものが盗まれる」という犯罪なんだか何なんだかわからないトボけた事件だし。部長として大量在庫を売りさばこうとする千反田えるの右斜め上をいく努力や、トラブルすら楽しもうとする福部里志のアクティブさにニコニコしながら読み進む。料理コンテストに出て名を挙げ、ついでに文集PRをしちゃおうなんていうくだりでは、物語の帰趨より千反田・福部・伊原摩耶花の古典部3人タッグによる料理バトルそのものに大興奮! ここだけで30分アニメが作れる!

「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーとする省エネ型主人公・折木奉太郎は店番としてただ座っているだけだが、なぜか手元にあるものがそれを必要とする人にもらわれていき、代わりに何かを受け取るという「わらしべ長者」状態に。これを「わらしべプロトコル」という称するセンスがなんともステキだ。もちろんその「わらしべ」が物語に関わってくるであろうことが期待され、わくわく度はマックス。しかも各章の最後には【残り○○部】というカウントダウンが表示され、そりゃどこのバトルロワイヤルのパロディかと大笑い。

しかし楽しいだけじゃない。特に刷り部数を間違えた摩耶花が感じる責任と、彼女が巻き込まれた漫研内での争いは読んでいて心が痛い。自分の役割を他人のそれと比べる福部の、明るい中に見え隠れするあきらめも辛い。どれもこれも、大人になってしまえば「小さなこと」なのだけど、その小さなことが生活のすべてになってしまうのが青春というもの。楽しさに内包された、そんな苦みも合わせて味わって欲しい1冊。


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