病院内にも「交番」が存在する……? 知られざる「院内交番」のリアルとは

マンガ

公開日:2020/9/10

H/Pホスピタルポリスの勤務日誌
『H/Pホスピタルポリスの勤務日誌』(杜野亜希/講談社)

 近年は、空港や駅構内のように、警察官OBが常駐する「交番」を設置する病院が増加傾向にある。実際に僕が勤めていた病院にも院内交番があり、毎日のようにトラブルと向き合っていた。ただ、病院の敷地内に警察関係者が常駐するなど、一昔前までは考えられなかったことだ。それだけ現代の病院は、トラブルや事件が起きやすい場所へと変わってしまったということなのかもしれない。

 そして『H/Pホスピタルポリスの勤務日誌』(杜野亜希/講談社)を読み、改めて院内警察導入の大切さを感じさせられた。

 本作の主人公は、警察官の恋河内環だ。彼女はある日突然、警察本部長から国立大学病院の院内警察隊へ異動するよう命じられる。穏やかな性格の宇高竜彦と、警察学校を卒業したばかりの福士令生とともに、院内警察隊の一員として病院の安全を守ることになったのだ。

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 突然の異動命令に加え、まったく聞き覚えのない試験的組織への配属。普通なら不満の一つも出たっておかしくない。しかし、環は何でも全力で取り組むのが信条の熱血警察官。院内警察隊として成果を出そうと燃え上がる一方であった。

 物語はこの設定をベースに、病院で起こる様々な事件と院内警察隊との関わりを描いていく。院内警察の主な仕事は、院内の見回りと、院内で起きるトラブルや事件に介入し病院を守ることだ。現代の病院では、どんな些細なことでも大きな犯罪や事故につながりかねないため、その責任は重大である。一つひとつ丁寧に解決へと導いていかなければならない。

 作中では、実際に起きてもおかしくないほどリアルな院内トラブルや事件が、3人を襲う。特に、患者の私物に関する話や、医師と患者のいざこざに関する話は、医療従事者から共感の嵐を呼ぶはずだ。僕も読んでいる最中に「こういうトラブルあるある!」と口をついて出てしまった。

 院内警察隊が遭遇するのは特殊な事案ばかり。しかし病人相手に無理な捜査は行えない。それゆえ、普段より慎重かつ丁寧に捜査をしようとする。環1人を除いては……。

 環は熱血であると同時に早とちりで強がりな性格だ。自分が「こうだ!」と決めたことには、後先考えず突っ走り、1人で事件を解決しようとする。一度スイッチが入ってしまうと周りの声はもう届かない。ただそのせいで、事件とは関係ない人を容疑者と決めつけたり、変装していた福士を犯人と間違えて投げ飛ばしたりと、警察官としてあるまじき失敗を繰り返してしまう。これには優しい上司の宇高も環を叱責する。

 ただ宇高は知っていた。環が何でも1人で決めて突っ走ってしまう原因が彼女自身の過去にあることを。そして、その過去を振り切り成長するためのカギは、彼女がいま配属されている病院にあることも。環が抱える過去とは、一体……?

 本作は、現役の警察官が配属されるという架空設定ではあるが、作中で描かれる事件や大病院に入院する患者の描写、医療従事者のキャラ描写は実にリアルだ。

 それゆえに、医療従事者はもちろん、あまり大きな病院に通ったことがない人でも、自然とその世界観に溶け込めるはずだ。人によっては「院内警察の大切さ」に気づくかもしれない。

 数多くの医療系漫画の中で「病院×警察」という新しいジャンルを切り拓いた本作をぜひ手に取り、読んでいただきたい。

文=トヤカン