執筆から120年後に実話だと判明! 全米に衝撃が走った『ある奴隷少女に起こった出来事』

マンガ

公開日:2020/9/10

ある奴隷少女に起こった出来事
『ある奴隷少女に起こった出来事(1)』(あらいまりこ:漫画、ハリエット・A・ジェイコブズ:原作、堀越ゆき:訳/双葉社)

 1988年、アメリカの黒人奴隷史について調べていた女性が、ある研究結果を発表した。120年もの間、内容の衝撃度の高さからフィクションだと思われていた物語が、実話だと学術的に証明されたのだ。

 タイトルは「LIFE OF A SLAVE GIRL」……日本語に直訳すると「奴隷少女の人生」である。このノンフィクションは全米で大反響を呼んだ。

 しかし、日本語訳はなかなかされず、原書が電子書籍で世界古典名作ランキングに入ったのを偶然見つけたのは、外資系コンサルティング会社に勤務する堀越ゆきさんだった。堀越さんはこの手記を夢中で読み、自ら翻訳を担当。2013年、大和書房で『ある奴隷少女に起こった出来事』というタイトルで単行本化した。奴隷制度の過酷な実情に日本でも驚きの声が上がり、その年の文芸書大賞(啓文堂書店)を受賞、タレントの黒柳徹子さんも推薦した。

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 本作は2017年に文庫化、今年、満を持して漫画家あらいまりこさんによって双葉社でコミカライズされた。小説版の静かな雰囲気の表紙とは異なり、漫画の表紙では黒人の少女がまっすぐに正面、つまり読者を見つめている。奴隷として過酷な運命にさらされる実在した少女が目に見える形で読者に迫ってくる。

 始まりは1828年のアメリカ南部。主人公リンダは奴隷として幼少時代を送るが、リンダたちを管理していたのがやさしい白人女性マーガレットだったおかげで、白人の子供と同じように育てられる。ところが彼女が12歳のとき、マーガレットは死にリンダの運命は激変する。

 彼女が弟と共に奴隷として送られたのは、マーガレットの姉メアリーとメアリーよりだいぶ年上の夫ジェイムズの屋敷だった。

 その屋敷では奴隷は人間としての扱いを受けていなかった。リンダの黒人の友人タバサはわずか12歳でジェイムズの子供を妊娠、出産するが、直後、産んだばかりの子供と共に死亡する。リンダもジェイムズから性的なまなざしで見られるようになり、ジェイムズの妻メアリーから深く憎まれる。リンダはある少年と恋に落ちるが、それも奴隷であるがゆえに悲しい結末を迎えることとなる。

 穏やかな場面と、リンダが恐怖に陥ったり苦しめられたりする場面の人物の表情はまったく異なる。後者の描写はかなり凄まじく、人間とは思えないほどのグロテスクな表情をしているジェイムズやメアリーは本当に恐ろしい。小説だとわからない、漫画ならではの絵柄が頭から離れず、白人の主人たちは奴隷たちにどれほど恐怖をもたらすものだったのかを私たちは痛感する。

“自分の手で この絶望の底から這い上がってみせる!”

 希望を捨てないリンダの願いは叶うのだろうか? この後、彼女に何が起こるのだろうか?

 本作に登場する奴隷ではない「自由黒人」の存在も無視できない。例外的に自由を許された黒人がいるのだ。リンダにとって唯一の希望は、この自由黒人になることだけのように思える。物語は2巻へと続いていく。

文=若林理央