税金はちゃんと払います!と宣言したくなるお仕事小説

小説・エッセイ

公開日:2012/7/27

トッカン ― 特別国税徴収官

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 早川書房
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:高殿円 価格:668円

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税務署。たいていの人は普段の生活で気にする事はほとんどないだろう。ただし、脱税や滞納をしていると、その限りではない。嫌も応もなくあちらから関わってきてくれる。悪質な脱税には国税査察官いわゆる「マルサ」が乗り出すが、一般の滞納を取り扱うのは国税徴収官。本書はその国税徴収官を主人公にしたシリーズ第1作である。

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ヒロイン鈴宮深樹は25歳。東京国税局の京橋中央税務署、特別徴収部門に所属する国税徴収官だ。今の仕事は、徴収部門の中でも特に悪質な滞納事案を扱う特別国税徴収官(トッカン)の鏡の補佐。いかんせんまだ経験が少なく、何かと言えば「ぐっ」と言葉に詰まることから「ぐー子」というあだ名がつけられている。安定を求めて公務員試験を受けた、普通の女の子。まあ、その生い立ちにはけっこうハードな出来事もあったのだが……。

本書はいろんな事例を通してぐー子が徴収官として成長して行く、お仕事小説であり成長小説だが、読みどころはいろんな滞納の事案と、それへの対応だ。対象は「払えない」「払いたくない」と言う。払えるのに払わない相手に対しては鏡特官は容赦ない。車や価値のある衣服を差し押さえるだけでなく、「高価な愛犬」まで持って行ってしまう。

しかしその一方で、税金はおろか、生活費にも事欠く者もいる。そんな者に対しても、鏡はコンタクトを欠かさない。ぐー子はそんな鏡を鬼のようだと感じるが、そこに込められた「真実」に気づくとき、世界は反転する。意外な真相、さまざまな事例と払わない理由、払わせるまでの攻防、探り合い、推理、罠……まるで上質のミステリやサスペンスを読んでいるかのようだ。お仕事小説としてのエンタメ度は極めて高い。

けれど本書の最大のキモは、国税徴収官という仕事そのものが持つジレンマだろう。鏡は言う。「いいか鈴宮、国税の人間のくせに、中途半端に人情をふりかざそうとするのはやめろ」「俺たちの仕事は嫌われている。それを自覚して、受け止め、覚悟をしろ。どうして俺たちが住所から遠い場所に配属されるか考えたことはあるのか」──なんと辛い言葉だろう。非があるのは、払うと決められているものを払わない側だ。なのに世間で嫌われるのは、徴収する側なのだ。別に彼らの懐に入るわけじゃないのに。

公務員の仕事って何だろうと考えさせられる。ぐー子は公務員として与えられた仕事はちゃんとしている、と思っていた。しかし「ちゃんと」の内容が問題だったと思い知らされるエピソードが出てくる。公務員が対峙するのはそれぞれ感情や事情を持つ人間なのだ、ということを忘れて事務的に処理した案件が大きな事態を呼んでしまうのだ。税金を払う側と、徴収する側の、両方の気持ちや事情がわかる、実に希有な作品である。

本書は井上真央さん主演でドラマ化された(本書に出てくる鏡の外見描写を読むと、鏡役が北村有起哉さんというのには膝を打った)。シリーズ2巻、3巻も紙の書籍で発売されており、トッカン人気はしばらく続きそうである。続刊の電子化も待たれるところだ。


登場人物一覧がバッチリ

なんと税務署の用語集まで!

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