10月映画公開の話題作! 本好きなら「観る前に読む!」異界から誰かを呼ぶ、使者の物語

小説・エッセイ

更新日:2012/9/20

ツナグ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:辻村深月 価格:1,296円

※最新の価格はストアでご確認ください。

亡くなってしまった人にどうしても会いたい。どうしてもその人にしかできない話をなんとかして伝えたい。不可能なことだ。普通は諦める。あるいは霊媒師に頼む人もいるかもしれない。でも、それが霊媒師の演技でないと言い切れるのか。また、霊媒師の話で満足して帰れるのか。

advertisement

しかし、もしも、その人に会わせてもらえるとしたら? 口寄せではなく、身体を持ったその人自身に?

生者と死者を仲介できる人間がいる。その役割は「使者」と書いて「ツナグ」と読む。本気で探して、さらに運良くタイミングがあった人間だけが、使者とコンタクトを取ることができる。

その使者にまつわる5編の物語が収録された連作中編集だ。あこがれのアイドルに会いたいファン、母に会い自分の選択が正しかったのかどうか確かめたい男、つぐないきれない過ちを親友に詫びたい少女、失踪した恋人が亡くなっているのではと探しにきた男…すべて1人称で、主人公が語る形式だ。さらに使者自身の物語があり、舞台裏も見せてくれる。まだ若い著者であるのに、くたびれたOLや中年男性の心理が細やかに描写されるのに驚く。

共通するのは使者と会うルールのみ――ひとりの人間が“この世”にいるうちに、“あの世”の死者に会える機会はひとり分だけ。死者が生者に会えるのも1度きり。満月の日が最も会いやすく、会える時間帯は日没から夜明けまで。死者から生者に働きかけることはできない。

設定は共通だがストーリーはバラエティ豊富で1本調子ではない。読者の先読みに動じないふうの王道の恋愛話もあれば(しかし、これが泣けるんです!)、親友を殺した告白から『刑事コロンボ』のように何が起こったのかを追って行くミステリ仕立ての話もあり、どの作品も読み応えがある。一気読みにも1話ずつ楽しむことも向いているのが、隙間時間で読書する電子書籍リーダーにはさらにうれしいところだろう。


ルールは“あの世”にもある。このルールもストーリーの肝だ

使者の仕事にはマニュアルもある。作品の中ではちょっとユーモラスなシーン

倒叙法で読者を引き込む。著者のストーリーテリングは見事