妖と人のあわいとつながりを描いた、優しく切ないファンタジー

更新日:2015/10/5

夏目友人帳 (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 白泉社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:緑川ゆき 価格:406円

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社会人になりたての頃、マンガ雑誌は『花とゆめ』が好きでしたと言ったら同僚に「やっぱり」と言われました。どういう意味だったのでしょう。それはさておき、白泉社系は優しいファンタジーコミックが多くてとても好き。現在、その代表格ともいえる『夏目友人帳』は、人と妖のあわいと繋がりを描いたコミックです。

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主人公の男子高生・夏目は、幼いころから人ではないものが見えてしまい、妖に追いかけ回されるなんてことも日常茶飯事。祖母が若いころに住んでいた土地に越してきて以来、その頻度は急上昇。なんと、同じ力をもっていた祖母・レイコは、妖たちに勝負を挑み、名前を奪って「友人帳」をつくりあげ、片っ端から子分にしていたのです。彼女にそっくりな夏目が祖母のかわりに、「名前をかえせ」「友人帳をよこせ」と襲い掛かられていたという次第。

レイコとちがって好戦的ではない夏目は、自称・用心棒としてそばについた妖・ニャンコ先生とともに、妖たちに名前をかえしてまわるというのがこのお話。

とにかく優しいんですよね、夏目というよりこのお話に出てくる人たちが。みんな、“人とは違う”ことに傷ついて、さみしくて、それで自分を守るために攻撃してしまったり、忘れられたのが悲しくて暴走してみたり、妖も人間もその心はとても繊細で脆くて、壊れやすい。だけどそうなってしまうのはやっぱり、人が、相手が好きだから。理解されたいし一緒にいたいし、触れ合っていたいから悲しむし怒るのです。喧嘩で名前を奪った相手を連ねたその冊子を「友人帳」と呼んでいたレイコの想い、それを引き継いで名前を返しながら、つながり続けようとする夏目の強さ。おそらく友人帳を手にしてから、夏目は初めて妖たちと、これまで見ないふりをしてきた異形のものと向き合います。それは彼の心もまた、強くしなやかに成長させていくのです。

線は細いのに力強い、画の筆致から受ける印象と、物語のイメージはとても重なります。すべてがじわじわと心に沁みてきて、妖たちのことも愛おしくなってくる。世界の優しさに気づけるような、そんなコミック。ふとさみしいとき、癒されたいときにとてもおすすめです。


幼いころから、人ではないものが見えて襲われることも多い夏目

友人帳について教示してくれる、ニャンコ先生。本当は強力な妖なのだけど……かわいい

妖とのかかわりを通じて、夏目も少しずつ、強くなっていきます

とはいえ、名前がえしの道のりには危険もいっぱい…

ままならないことも多いけれど、妖と向き合うことで夏目はたくさんの心を学ぶのです(C)緑川ゆき/白泉社