「ちょっと聞いてよ!」から始まる女子の長話を聞くように読む1冊

小説・エッセイ

公開日:2012/8/16

おいしいおしゃべり

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 東京書籍
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:阿川佐和子 価格:540円

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阿川佐和子さんのエッセイはいつ読んでも流れるような文章で本当に読みやすい。読み終わりは、タイトルの「おいしいおしゃべり」の意味が理解できるような感覚。美味しいもの食べて満腹感と満足感と幸福感に包まれた時と似たような感覚でした。

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タイトルを見たとき、著者の思い出の食事にまつわるエッセイかと思いきや、それだけじゃないのです。独身女子の身の上を自虐的に笑い飛ばし(本人はそのつもりはないかもしれませんが)、幼少期を振り返り後悔し、コンプレックスを暴露して、素敵な友人を羨ましがる。

出発点は誰もが持っている小さなネガティブを観察力と想像力で、まるで友だちの「聞いて、聞いて」という女子ならではのおしゃべりを聞いているよう。「それ、分かるー!」と相槌を打ちたくなるような共感もあり、「そこが気になるポイントなの!」とツッコミを入れたくもなる。

ひとつ印象に残ったいい話を紹介しよう。そう、笑うだけじゃなくいい話もあります。文藝春秋の連載「この人に会いたい」のインタビューは現在で18年も続く阿川佐和子氏の看板連載。エッセイにはこの連載がスタートして2年ほどの時期に書かれたものです。
「インタビュー心得」というタイトルの中で著者は言う。この連載を依頼されたときすごく迷ったと。テレビの仕事でいろんな方にインタビューをしてきたが叱られたことはあっても褒められたことはない。本人曰くインタビューは苦手だったと。鋭い質問もできないし、ポイントがつかめていないし、沈黙が怖くて相手が答えている最中には頭の中では次の質問を考える。

しかし、連載を初めて2年ほど経った時、テレビの仕事でインタビューを褒められたそうだ。自殺した方の家族からその時の状況を聞くという難しいインタビュー。ディレクターは相手に話したいと思わせるインタビューだったと褒めてくれたそうだ。この時、著者はもっとも大事なことは「話しを聞く」ことだと気づいた。最低限、その人がしゃべっていることを心から聞こうという態度だけは崩すまいと。鋭い質問やポイントを的確に抑えた質問はできないけど、著者ができることは「話して良かった、楽しかった」と言ってもらえるようなインタビューにしたいと相手の話に心を傾けて聞く。

友だちとのおしゃべりも相手のことをしっかり見つめ、向き合ってしゃべるから楽しいのだ。ちゃんと聞くという姿勢が楽しい会話を作り上げる。もちろん、これは本なので直接おしゃべりをしているわけではないけれど、食事も誰と向き合って、何をしゃべりながら食べるのかで大きく変わるもの。
笑いあり、学びありのエッセイです。もちろんちゃんと食べることについても書かれていますのでぜひ読んでみてください。


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