家事をしなくなった母親と、娘2人のオアシスや、いずこ

小説・エッセイ

更新日:2012/12/28

オアシス

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 河出書房新社
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:生田紗代 価格:864円

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作者の生田紗代は81年生まれ。2003年に大学在学中、この小説で第40回文藝賞を受賞。とても簡単に読めてしまう作品です。

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描かれる風景も人物設定も、どこにでもあるような倦怠感とルーティーンばかり。それでも退屈しないのは話の展開の仕方と、文章が見事に同じ波長だからでしょうか。淡々としながら、何か起こりそうな日常。ときどき突き刺さるような会話の中の何気ない家族の冷たいひとこと。母と娘たちの微妙な関係。だれの人生にでも必ずありそうな断片の数々。シチュエーションの割には決して読後感が悪くないのが不思議。

主人公のメー子は21歳のフリーター。一家には姉サキちゃんと、家事放棄した母と3人暮らし。父親は単身赴任で家にはおらず、姉妹は母の扱いをもてあましている。メー子が自転車を盗まれてしまうことから物語は始まりますが、それほど山場もなく、事件もなく、大小の「出来事」と家族の会話で小説は成り立っています。気負いのなさというか、自然体というか、これを大学生が書いたからこそ、この気だるさ感を達成できたのか、と。どこにでもある家族の波、誰にでもあるいい日と悪い日。20代の軽い絶望感。そんなものを感じながらも、好印象が残るのは、根底にはやはり家族愛を感じるからでしょうか。

共感、というよりは電車の中から流れる車窓を見るような、そのときにちらりと他人の人生を感じたり、考えたりさせられるような、そんな距離感を持った作品です。なかなか、いい。作家の今の作品が読みたくなりました。


家事をしなくなった母。「発病」のころから娘は客観的に母を観察しています

「もしかして、私はあの母を、とても愛しているのではないだろうか」。この1行が効いています

母にりんごを剥いて渡し、「やべ、またエサやっちゃった」という姉のサキ

娘ならではの、残酷さ
(C)生田紗代/河出書房新社