厳しい現状だが、希望もある!
公開日:2012/9/22
脳科学者としてより『バカの壁』著者としてのほうが、もはや通りがいいかもしれない養老先生が、日本の現実に警鐘を鳴らす対談集。
サブタイトルが「農業、漁業、林業、そして食卓を語り合う」なのだが、まず、普通の人々の食卓がどうなっているのか、『変わる家族 変わる食卓』の著者である岩村暢子さんとの対談が巻頭に配置されている。岩村さんは元マーケターで『変わる家族 変わる食卓』は心ある女性誌編集者やライターたちが雑誌を作る上での必読参考書としている本。流石の人選だと思った。
メディアで報道されている「普通の日本人」のイメージと現実の姿との齟齬にショックを受けたのちに、食に直接関わる農業・漁業へと対談相手とテーマが変わっていく構成が素晴らしい。
農業は無農薬による不耕起栽培を提唱した岩澤信夫さんが語る。これは、遺伝子組み換え作物による不耕起栽培とはまったく異なり、水田を耕さないことで田んぼの生態系を利用し土壌を豊かにする栽培法だ。
漁業は気仙沼でカキを養殖している畠山重篤さん、林業は間伐の指導をしている鋸谷茂さん。畠山さんはよいカキをつくるために海の環境汚染を防ぐこと、ひいては海に流れ込む河の環境を改善することに着目し、植林活動をされたことで国連のフォレストヒーローズに選出された。
そこから林業の現状を知る鋸谷さんの話へとつながっていく。この鋸谷さんも独自の苅らない間伐法を編み出されているが、経験に基づく工夫、あるいはクリエイティビティがすごい。
この対談からはタイトル通り、あまり報道されない、あるいは報道とかなりギャップがある日本の現状が浮かび上がってくる。危機感も感じるが、対談相手に選ばれている方々が素晴らしいので、修正していけば未来はなんとかなるのだろうかと希望も感じられた。食の安全性や、エコロジーのほか、ビジネスに興味がある人、プロフェッショナルの仕事に素直に感動したい人にもオススメ。
メディアは報道しているものがリアルとは限らない
奥が岩澤さんの田んぼ。冷害の影響をまったく受けていない
行動が早いのもプロフェッショナルの証か
経済という物差しを当てはめてもよいのはどこまでか