『ニーチェの言葉』をニーチェの音楽を聴きながら読んだら、ニーチェの言葉が聞こえた

公開日:2012/9/25

超訳ニーチェの言葉 II

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : ディスカヴァー・トゥエンティワン
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:フリ-ドリヒ・ヴィルヘルム・ニ-チェ 価格:1,469円

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本書『超訳 ニーチェの言葉Ⅱ』は、110万部のベストセラーとなった『超訳 ニーチェの言葉Ⅰ』(2010年発売)の続編。『ニーチェの言葉Ⅰ』は、今日的な翻訳と1ページに一つの言葉(アフォリズム)を基本とした簡潔な編集で、哲学、難解、わからない、なにがわからないかもわからないといった哲学者ニーチェのイメージを払拭。「気軽にニーチェ、気軽に哲学」を教えてくれた。本書のスタイルも前著と同じ。1ページで内容が完結するつくりは、スマホで読書に最適。読書の秋は電書の秋。電書で気軽に『超訳 ニーチェの言葉Ⅱ』。

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ニーチェは音楽家でもあった。ピアノを弾き、作曲もした。ニーチェという名前を知ったのは音楽からだ。リヒャルト・ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」にはまったことがある。全部ではなく第2幕第2場だけ。それは狩にでかけた「夫」の留守に、イゾルデの館にやってきたトリスタンとイゾルデの愛欲シーンで、愛に溺れ、沈み、われを忘れ、また溺れ、沈み、ついに死ぬ~~~っ! というめくるめく音楽に、こっちも死ぬ~~~っ! といっしょに興奮。若く元気な変態だった。この音楽を通して知った名がショーペンハウエルとニーチェで、前者はワーグナーとニーチェにも影響を与えたこと、ニーチェは早くからワーグナーの音楽に心酔、やがて親密に交流するが離反したということをなにかで読んだのだ。しかし音楽と哲学の関係などまったくわからず、欲望に理屈がいるか、哲学は人間の言い訳だとへらず口をたたいていいた。

本書冒頭「はじめに 本書の旋律について」では、全体を流れるおもな旋律として「生の創造」「苦難の引き受け」「高みへの意志」があげられている。その主旋律を背景に生、愛、己、言、人、知、世、美、心について9テーマ、232の「ニーチェの言葉」が1ページ一つを基本に編集されている。通読もいいし、拾い読みもいい。また電書ゆえの検索読みもいい。欲望、意志、仕事、音楽や「はじめに」でとくに触れられている生成などの語句から検索すれば、目次とは違う自分テーマの読書ができる。

ワーグナー周辺だけの底の知れた読書からは、ニーチェはシニカルで、また少し病的で、どこか高慢な印象もあったが、この『ニーチェの言葉』には、真実は必ずしも人にやさしいものばかりではないけれど、それらをすべて肯定して生きてといっているような静かな励ましや救いがあって、そこには不思議と陰りのないニーチェがいた。もし本書から一つだけ言葉を選ぶことが許されるなら、それは「誰かが自分とはまったく別の仕方で生き、別なふうに感じていることを喜ぶことが愛というものだろう」(「愛について>愛という名の橋」から)

『ニーチェの言葉』を、ニーチェ作曲のピアノ作品集を聴きながら読んだ。ニーチェのワーグナーからの離反は、管見ではワーグナーがニーチェの音楽を認めなかったことも理由の一つという。その音楽はどれも幻想曲風で、ニーチェの言葉があふれるような音になって聞こえてくるような気がした。


「はじめに」では、「ニーチェの言葉」全体に流れる主旋律が解説されている

目次。生、愛、己など9テーマに232の「ニーチェの言葉」が

ニーチェがこれらの言葉を書いて130年あまり。電書のなかにニーチェの言葉が生きている(「知について」より)

「ワーグナーの場合」など、ニーチェは音楽に関する著作も残している(「美について」より)