恋に落ちること、このどうしようもなさ

小説・エッセイ

公開日:2012/9/30

ふがいない僕は空を見た

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:窪美澄 価格:1,209円

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アイコンでは「恋愛もの」に印を付けた。しかしこれを恋愛小説と言ってしまっていいものか、迷いがある。この作品は2011年度の本屋大賞2位、さらに山本周五郎賞を受賞した人間ドラマでもある。2012年11月には、永山絢斗と田畑智子のダブル主演で映画も公開される予定だ。

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第1話『ミクマリ』と第2話『世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸』は、物凄く濃厚なうえ、ひどく切ない恋愛小説だ。しかし、第3話以降はその恋愛がスキャンダルになってしまったあとの、第一話の主人公・斉藤くんの周囲の人々を描く。

第3話『2035年のオーガズム』は斉藤くんと付き合うはずだった女子高生・松永さんの物語。第4話『セイタカアワダチソウの空』はもう恋愛とは関係ない、斉藤くんの友人・良太の成長物語であり、第5話『花粉・受粉』は斉藤くんの母親の話だ。

しかし、どの主人公の気持ちもありありと感じ取れるのだ。主人公が変わるたびに自然に変わる文体が、より共感を誘う。話し言葉ということではなく、地の文がまるで違うのだ。描写も緻密かつリアル。大変な力量だ。デビューは最近で2009年の『ミクマリ』でのR-18文学賞受賞、しかしライターとして経験を積んで来られた方のようだ。

5つの物語のどの人物にもすこしずつ弱いところがあり、痛みを抱えている。どの人物の物語も多かれ少なかれ、セックスとリンクしている。主人公の名前すら出て来ない、徹底して男と女しかいない第1話は別としても、5人の主人公たちそれぞれが、思春期も終わるころ突然の性欲に戸惑ったり、異常性欲に苦しむ人物に出会ったり、セックスの果ての出産を生業にしていたりする。これは、すべて恋愛と性欲を分けられない私たちの物語なのだ。


『ミクマリ』冒頭はほとんど官能小説、な過激さ

『世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸』では、同じ場面があんず側から描かれる

第3話では、2人の純愛はすでにゴシップになってしまっている

第4話の主人公、良太はそれまでの3人とは違い最初から逆境で生きている

第5話、斉藤くんの母はハードに働く助産師だ。この章で初めて地の文が社会的な責任を持った大人の言葉になる