新米刑事をヒーローに据えた今野敏の新シリーズ

小説・エッセイ

公開日:2012/10/10

同期

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:今野敏 価格:802円

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警察小説の雄である今野敏による新シリーズ一冊目である。ベテラン刑事物を得意とする今野としてはめずらしく、新米刑事宇田川がヒーローとなる。

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指定暴力団幹部の刺死体が発見され、捜査一課の宇田川も、組対四課の要請を受けて特別捜査本部に加わることになる。家宅捜査に入った暴力団事務所で、ひとりの組員がやにわに逃走する。追跡した宇田川は発砲を受けるが、同期の公安刑事・蘇我にあわやのところを助けられる。だが、なぜその場所に公安の蘇我がいたのか。訝るうち、突然、蘇我は懲戒解雇を受けて失踪した。行方を追う宇田川の耳に飛び込んできたのは、発砲した組員が殺されたことと、ふたつの殺害事件の容疑者に蘇我が浮かび上がった事実だった。なんとか蘇我を見つけ出し、救おうとする蘇我の前に、思いもかけない大きな事件の影が立ちはだかる。

なによりの面白さは、成長小説としての宇田川の変貌ぶりだ。冒頭で刑事としての自分や仕事へのあやふやな感慨を抱いていた宇田川は、事件の荒波にもまれていくうち、終盤には正義感と自信にあふれた男に生まれ変わる。

だが彼はひとりでこの道を歩くのではない。気むずかしいくきびしい先輩や、同僚たち、そして上司など、それぞれの思惑を抱えて軋みながらうごめく人間たちの間で、支えられ、たたかれ、励まされ、落とされ、引き上げられ、褒められ、けなされて勇気づけられるのだ。

さまざまなキャラクターが交差しあう今野の作品は、しかしどの人物も基本的には「正しいこと」への情熱によって突き動かされているから、本作も信用して物語の流れにつきあっていけるというか、ある種幸福な予定調和の中に、心躍るドラマの開花を楽しむことができる。

勘と経験が盤石なたたき上げ刑事のシリーズからちょいとはずれた、宇田川ものへの道しるべとして、とりあえず一作読んでみたらいかがだろう。


宇田川は同期の蘇我にしばらくぶりに出くわす

宇田川は上昇志向が強く、蘇我は成り行き任せのタイプだった。にもかかわらず蘇我のほうが早く本庁に呼ばれたのだ

宇田川が組まされる先輩の植松刑事は、たたき上げの口うるさい年上で、いささか煙たい存在だ

組対とともに暴力団事務所への家宅捜査に…