出版してくれてありがとう! 怪盗紳士ルパン、70年ぶりに登場

小説・エッセイ

更新日:2012/10/25

ルパン、最後の恋

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 早川書房
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:モーリス・ルブラン 価格:583円

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アルセーヌ・ルパン。金持ちから美術品や宝石を奪う義賊。変装が得意で、人殺しはしない怪盗紳士。シャーロック・ホームズと並び称される冒険推理小説のヒーローだ。子どものころにジュヴナイル版を読んだという人も多いだろう。作者のモーリス・ルブランが亡くなって70年経つが、なんと今になって「新作」が出たことは、世界中で話題になった。

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モーリス・ルブランが亡くなった際、未発表の原稿があることは関係者には知られていた。しかしまだ推敲途中の未完成原稿であることから、息子さんが出版を断ったのだそうだ。そのため本書は長らく「幻の作品」であったのだが、その息子さんも亡くなり、ルブランの孫娘フロランスさんが父の遺品を整理していると、クローゼットの中から(!)厚い布にくるまれた本書の原稿が出てきたのだという。フロレンスさんは原稿を一読して驚き、今回の出版が実現したという次第。

ではなぜフロレンスさんは「驚いた」のか。本書には、それまでのルパンとは違う一面があったからだと言う。

本書は、アルセーヌ・ルパンの曾祖父の話から始まる。なんとナポレオン治世の頃の話だ。そこである「本」にまつわる事件が紹介されたあと、舞台は1921年のパリに移る。主人公はレルヌ大公の娘コラは、父が死に、悲しみにくれていた。そんなコラを外遊中に知り合った四人の男性が慰める。ところは父は死に際に、この四人のうちのひとりが、あのアルセーヌ・ルパンだと書き残したのだ。ルパンは信頼に足る人物なので、誰がルパンなのかを見極め、彼を頼りにするように、と。そしてさらなる衝撃の事実がコラにもたらされる。実はコラはレルヌ大公の実の娘ではなく、高貴な血を引く存在だったというのだ。俄然、彼女の周りがきな臭くなり、ルパンは──。

またルパンに会えたという喜び(読みながら何度も「ああルパンだ ルパンだ!」とにやにやしてしまった)や懐かしさもさることながら、新鮮な驚きをもたらしてくれたのは、この作品でルパンが「やろうとしていること」だ。1921年という年代に注目されたい。第一次大戦の傷がまだ癒えぬ頃である。クライマックスの場面でルパンは、戦争を否定し、自分は世界平和を打ち立てる助けになりたいのだ、とはっきり言うのである。この原稿を読んだフロレンスさんが驚いた、というのもこのルパンの姿にだと言う。v

まだ推敲途中の未完成原稿ということで、これまでの作品との矛盾が指摘されたりもしているが、それよりはむしろ、過去作品とのつながりを見つける方が楽しい。時系列を考えたり、あの後でこういう心境になったのかと考えたりすると嬉しくなる。だから逆に、これまでルパンを読んだことがないという人がこれを最初に手を取ると戸惑う部分があるかもしれないが、これを気に、既存作から挑戦していただきたい。ジュヴナイルしか読んだことがないという人も同様だ。そこにはエキサイティングにして豊穣な世界が広がっているのだから。


ボーナストラックとして、ルパン初登場の初出版も収録

訳者あと書きには、出版までの経緯や読みどころ、過去作との矛盾の解釈などが説明されている