もう「この会社がなくなったら電気がなくなる」なんて言わせない!

更新日:2012/10/26

東電解体―巨大株式会社の終焉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 東洋経済新報社
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:奥村宏 価格:1,382円

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東電株主総会に行ったことがある。福島原発事故直後だった。勝俣会長の傲岸不遜さは満席の来場者を憤慨させた。総会終了後、株主のひとりらしき老紳士が若い社員に「君たち、よくあんな男の下で働いていられるな!」と呆れているとも怒っているともつかぬ嘆声を発していたのをよく覚えている。そのときは、対応していた若い社員に同情した。しかし、株主たちの退出後、忘れ物に気づいて会場に戻ってみると、東電社員たちが非常に楽しそうに談笑していたのに出くわした。教師のお説教を適当に聞き流してコンパにでも行く学生のように…。

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彼らは事の重大性がまったくわかっていないのだ。そもそも東電は事故の責任をほとんどまったく取っていない。事故直後は清水社長ひとりが退社したのみで傲岸不遜な会長も居座ったまま(今年の6月にやっと退任)、日本航空のように減資もしていない。賠償についてなどは、どこの会社が起こした事故かという態度で、税金を注入して救済されたのに電気料金の値上げまで行った。

そんな東電の体質を、会社学を提唱する経済学者が詳細に分析し、さらに電力業界はどのように再編されるべきかを論じた。本書によれば、日本の電力会社事業者数は明治時代に50社以上。大正時代には810社。それが戦時下に統合され、戦後GHQの再編成を経て、便宜的に現在の姿になった。そもそも経済的・適者生存的に統合されたのではないということだ。

大きくなりすぎた会社の非効率性を訴えてきた著者は、東電の再編成について送電部門と発電部門の分離だけでは意味がなく、そのいずれもさらに小さな組織に分割して行くべきだと訴える。また、沖縄電力以外のすべての会社に原発が存在することを指摘し、東電の分割は電力業界全体の問題だと論を展開していく。法人にどの程度刑事責任が問われるのかなどについても、水俣病のチッソ、薬害エイズのミドリ十字、福知山線事故のJR西日本を例に、明確な説明がなされている。
経済書を読むのが初めての方でも本書の内容は非常にわかりやすい。今後、東電のような独占企業にどのように対処すべきか、最良の手引きとなるだろう。


東電救済はメインバンクの三井住友銀行救済に等しかった。事実、法案の叩き台は三井住友銀行が作成した

東電が破綻しても電力の供給を止めない方法はいくらでもある。消費者もそれを知る必要がある

レート・ベースとは原発のコストを料金に上乗せできるということ。消費者の利益どころか安全性をも無視した経営モデルがまかり通ってきた

例えば戦前の京都市は水力発電で市電を運営していた。市長村営の電気事業はほかにもあった

末端の作業員に全責任を負わせ事故の原因を追及して来なかった結果が福島に。だから「福島は人災」なのだ