働くことは生きること。主体的に人生を選ぶよう私たちに呼びかける良書

公開日:2012/10/29

ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : プレジデント社
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:BookLive!
著者名:リンダ・グラットン 価格:1,620円

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副題は「孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉」。ことさらに「ワーク」「働き方」という言葉が強調されているうえ、著者がロンドン・ビジネススクールの教授、出版社がプレジデント社、ときているので、リアル書店ではこの本はおそらく堅いビジネス書の棚に置かれているだろう。が、これは「自分の人生をどう生きていくのか」問いかける本、小説とともに店頭に平積みにされてしかるべき本だ。原語では“The Shift: The Future of work is Already Here”というタイトルで、副題に「未来の働き方はもういまから選べるんですよ」というメッセージが含まれているが、ここでいう「働き方」はこの書籍の内容から言えば「生き方」に等しい。

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著者の予測によれば2025年には、医療の進歩により長寿化が進んだ結果、現行の65歳定年では行政が年金システムを支えきれなくなり、好む好まざるに関わらず誰もが死ぬまで働くことになるだろうからだ。つまりビジネスマン以外の人々、むしろ学生やフルタイムで働くつもりのないフリーターすら読むべき本と言える。

 

著者は2025年というごく間近な未来を以下のように予想している(レビュアーの要約・著者の主張すべてをカバーするものではありません! もっとおもしろいことも書かれてますよ)。

1、テクノロジーの進化
現在より以上にネットの人口と規模が増加、バーチャル空間へのアクセスがゲームだけではなくビジネスや教育でも使われるようになるなど。

2、経済のグローバル化の進展
たとえば支社が全世界に及ぶため年中無休・24時間休まない企業体制となる。中国とインドが経済的にも人材輩出国としてもさらに台頭。都市化と都市への人口集中、世界各地で新たな貧困層が出現するなど。

3、人口構成の変化と長寿化
1980年以降生まれの人々の影響力の拡大。医療の進歩による一層の長寿化。

4、伝統的な家族のあり方の更なる変化
国際間の移住の増加により、生まれ育ったコミュニティから離れて暮らす人々も増え、幸福感・政府や大企業への信頼感が弱まるなど。

5、エネルギー、環境問題の深刻化
エネルギー価格の上昇と、1のバーチャル空間で可能な作業が増えることで、さらに物や人の移動が減少。温暖化の進行により環境上の災害が増え、ホームレスとなる人々が現れるなど。

分析は多岐に渡っていて緻密、さらにそれだけで終わるのではなく、ではどう生きていくのか選択はあなたにかかっているのですよと読者に強く問いかけてくるのがこの本の特長だ。サンプルストーリーがあり、変化に対応できずに幸福になれない場合と、変化に対応して人生を楽しんでいる場合を想像しやすいので、どうしても自分と向き合う状況に読者を向かわせる。母親としてティーンエイジャーの息子に「役に立つことを言ってやる必要があると思った」と述懐する通り、かなり教育的だ。ビジネスの慣習を疑えと未来の世界を論じながら、結論は非常に良識的なところに帰着するところを物足りなく思う方もいるかもしれない。だが、真理とはそうしたものではないだろうか。


プロローグより。変化に目を閉ざすことの危険性を著者はまず指摘する

個人的には私も落ちた落とし穴、ではある。結果が遠い未来の選択を早めにするのは確かに難しい!

「選択肢がない」という安易な言い訳をお母さんは許してくれない。思考停止は許されないのだ