テンプレの海にぽつんと浮かぶ、無属性ヒロイン

ライトノベル

公開日:2012/10/30

冴えない彼女の育てかた

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA / 富士見書房
ジャンル:ライトノベル 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:丸戸史明 価格:450円

※最新の価格はストアでご確認ください。

以前、レビューもしましたが『30歳の保健体育』など奥手な人のための恋愛指南書的なサブカル本というのは結構あるんです。中身はたいてい“女性との会話では、語るより聞け!”みたいなことが書いてあります。

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この『冴えない彼女の育てかた』の主人公、安芸倫也くんは冒頭で帽子を風に飛ばされたヒロイン加藤恵と出会うわけですが、この出会い以降の彼の言動がすごい。おおよそ、その手の指南書が「絶対にやっちゃダメ!」と書いていることを次々と行っていきます。それは自分の趣味語りであったり、脳内のヒロインと現実のヒロインを同一線上で扱ったりと。

でも、ヒロイン役の加藤さんはもっとすごかった。これといって目立つところのない、平凡だけどちょっとかわいい女の子。という設定を決して裏切らない。絶対に思わせぶりな発言はしないし、逆に安芸くんに対して引くこともない。本編の言葉を借りるなら、フラットな対応しかしない。もう2人の登場人物である、澤村さんと霞ヶ丘さんのキャラが立ちまくっているのとは対照的なんだよなぁ。

ところが安芸くんが加藤さんを振り回しつつ、加藤さんをヒロインにした同人ゲームを作るというストーリーが進み、澤村さんや霞ヶ丘さんのキャラが鮮明になっていくと、加藤さんというキャラがまるで塗り残したように浮き上がってくるんですよ。

大沢在昌の言うように、強いキャラクターこそがストーリーを支えるのだとすれば、絵の才能に恵まれたオタクの澤村さんや、学年も違うし飛び抜けて優秀な霞ヶ丘さん、そして激しい消費型オタクの安芸くん。彼ら、強いけれどばらばらの柱を安芸くんの作りたいと思っているギャルゲー企画の名の下に集めていくのが加藤さんのポジションなんですね。

属性がないのが属性という、変わったヒロインとのやりとりが楽しい1冊です。


フラグが立った! と思っていたのは主人公だけで…

安芸くんが考えた、テンプレとしか言いようがない企画

加藤さんが遊びに来るシーンですよ。緊張感ゼロの会話が特異!

地の文ゼロでも誰のセリフかわかる筆力はさすがです