「裸ノ顔」は”殺し合い“ 写真家・荒木経惟ロングインタビュー

芸能

更新日:2015/4/21

  • (撮影:野村佐紀子)
  • 『男 アラーキーの裸ノ顔』

 アラーキーこと写真家・荒木経惟が17年間に渡って男の顔を撮り続けた「裸ノ顔」。『ダ・ヴィンチ』2015年5月号ではその連載200回突破を記念して「男―アラーキーの裸ノ顔―」特集を掲載。特集では、荒木経惟のロングインタビューを敢行。真っ向勝負の原点であり、これからの幕開けでもある「裸ノ顔」のすべてを語り尽くしている。

advertisement

『裸ノ顔』はアラーキーが写真で語る男論である

「お、いいねえ。こうして一冊になると、なかなかだね。全部男の顔、男のポートレート。こんな写真集、見たことないだろ」

 タイトルはズバリ、『男』。

『裸ノ顔』17年分の連載が一冊になった。210人分の顔、顔、顔……どの顔も何かを語りかけてくるようで、つい手をとめて見入ってしまう。

「気持ちとしてはリアリズムじゃなくて、リリシズムなんだよ、俺は。凛々しく撮ってさしあげたい。やっぱりさ、男には磁気がないと。色気、男気、人気、ま、何でもいいんだけど、磁気っていうのは、つまり惹きつける力のことだよ。背景を無地、白にするとその時点でどれだけその男がストーリーを持っているか、全部出るからね。誰を撮るかは編集部からも周りからも挙がってくるし、アタシも好みがあるから一応チョイスするけど、基本的にはこのシリーズはどんな男でもつきあうって決めたわけ。そうすると必ずいいとこ、あるんだよ。アタシは優しい写真家だから、そのいいとこをバッと引っ張り出すわけだ」

『裸ノ顔』は、つまりアラーキーが写真で語る男論でもある。

「もしかしたら一般的には魅力の勘定に入れないようなこともあるかもしれないけど、それがその人の個性ってことだからね。それぞれあるんだよ。それを見抜けないのは、こっちが未熟なのかもしれないじゃない。滑稽感だって魅力のひとつだからね。ちょっと幼稚でかわいくておかしいところがないと、男って魅力ないだろ。情けなさの魅力だってある。そういうのは決して男が下がることじゃないんだよ」

 普段は決してさらけ出せない弱さも情けなさも、この人にはむしろ見せてしまいたい、そんなふうに見えるのはなぜだろう。

「まあね、男っていうのは、基本的に弱いとことか情けないとこ、見せるのイヤだもんな。見られたくないって思ってる。だけど母親っていうのは情けない息子が一番カワイイって思ってるわけで、見てるんだよ、ちゃんと男を。かないませんよ、母の目には。でもアタシも、その隙が素敵なんだよっていうふうに撮るからね。その隙に攻め込むんじゃなくて、その隙が好き、スキスキってさ(笑)。そうやって撮り続けてきた17年分の結晶ですよ、これは」

さあ、勝負だって火花を散らすから殺気があるだろ

 相手の魅力を瞬時に見抜く。その早業には何度も驚かされてきた。たとえばこの日撮影した安田顕さんの場合(2015年6月号掲載予定)、スタジオ入りが早かったせいもあって、開始予定時間にはもう終わっていた。この連載の場合、こういうことは、実は珍しくない。

「見れば瞬時にわかるからね。占い師になれると思うよ、俺は。顔占い(笑)。たけしの新しい映画でヤクザやったって聞いたから最初はそっちのセンで行こうかって思ったけど、普通の男前として座っただけでもいいんだよ。唇がちょっと渇いていたから、舐めてよって言ったら、通じたもんね。あれは絶対モテると思うね。表情で女をくどけますよ、彼は。もちろん時間をかければ、また違う種類のいいのも撮れるけど、その時にピッと来たのを生かさなくちゃ」

 時間にしてほんの5〜10分で、文字通り、裸にされているというわけで「今日は色男に濡らしてもらって、こっちはもう接吻した気持ちだよ」と笑う。

「写真は顔だ、顔が一番頂点なんだって、アタシは、それこそ20歳かそこらの頃から言ってきたんですよ、顔で勝負だって。当時は銀座で中年女を撮ったり、地下鉄で向かいの席の客を隠し撮りしたり、出会いがしらの顔を撮りまくっていたんだけど、地下鉄で2駅とか3つめくらいの駅になるとその人に入りこんじゃう。あの頃はそうやって禅みたいに無の状態になったのがその人の顔だって言ってたんだけど、そういうのと『裸ノ顔』はまた全然違うんだよ。『裸ノ顔』ではちゃんと向かいあって、対峙して、さあ勝負だってお互いのエネルギーをぶつけあって火花が散る、その瞬間を撮る。いい意味での殺し合いっこなんだよ。それまでみたいに出会いがしらに竹光で斬るのとはわけが違う。真剣で斬りあった、真剣勝負だなっていうような感じのシリーズなんだよね」

取材・文=瀧晴巳/『ダ・ヴィンチ』5月号「男―アラーキーの裸ノ顔―」特集より一部抜粋

<開催概要>
ダ・ヴィンチ創刊20周年記念事業
荒木経惟写真展 「男 -アラーキーの裸ノ顔- 」

2015年4月24日(金)~5月6日(水・休)
11:00~21:00  入場無料
表参道ヒルズ 本館地下3F スペース オー
※4月26日(日)~20:00、5月6日(水・休)~18:00

主催:「アラーキーの裸ノ顔」実行委員会
協力:株式会社写真弘社/株式会社東京スタデオ/丸栄タオル株式会社
協力:株式会社クラフト
企画協力:内田真由美
問い合わせ: 03-3497-0310( 表参道ヒルズ 総合インフォメーション)

<写真集情報>※好評発売中!
男 アラーキーの裸ノ顔
荒木経惟 
KADOKAWA メディアファクトリー 5000円(税込)

ダ・ヴィンチ

『ダ・ヴィンチ』2015年5月号

KADOKAWA メディアファクトリー
定価650円(税込)

・第1特集 “愛”と“継承”の物語『NARUTO―ナルト―』
岸本斉史描き下ろしイラスト
岸本斉史×堀越耕平
竹内順子、杉山紀彰、中村千絵
・第2特集 男 アラーキーの裸ノ顔
北野武×荒木経惟