はあちゅう×紗倉まな「女性限定」トークイベントレポート【前編】

エンタメ

公開日:2017/6/16


 5月28日(日)、紗倉まなさんの新刊『凹凸』(KADOKAWA)の発売を記念した女性限定トークイベントが千代田区にあるKADOKAWAで開催された。ゲストとして招かれたのは、紗倉さんが敬愛してやまない書き手である、はあちゅうさんだ。

 彼女たちに共通するのは、文章の力で世界と対峙するという姿勢。はあちゅうさんは女子大生時代に始めたブログを機に、時代の寵児として注目を集めた。今年1月には文芸誌『群像』で小説を発表するなど、更なる自己表現の場を求めて活動している。
一方の紗倉さんはデビュー作である『最低。』(KADOKAWA)の映画化も決まり、小説家としての立ち位置を強固なものとしている。

 そんなふたりが繰り広げるトークショーでは、いったいどんなことが語られたのか。今回は特別にその一端をお届けしよう。

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「もともと、人前で喋れない子どもだったんです」(はあちゅう


 イベントがスタートし、まずは事前に配られた資料に目を通すふたり。そこには『凹凸』読者からの感想がまとめてあった。

「ボキャブラリーの豊富さ、言葉の選び方、表現力に驚きました。普段の紗倉さんから想像できない冷たい視点もあり、彼女の人間性に魅力を感じました」(原文ママ、以下同)

「小説の中のウエットな空気感と、改行の少ない文体がとても合っていて、読んでいて息苦しくなるような、絡め取られるような、作品の中に浸ってしまう感覚がありました。それでいて、読後感は割りとさらっと、毒々しさなどを感じなかったのも、面白い体験でした」

「友人や恋人は選ぶことができますが親と子は選ぶことはできません。だからこそ衝突するしだからと言って切れる関係でもない。家族関係は一生のテーマです。環境は違えどどこか共感できる部分があり、『凹凸』はそういった家族の問題を読み終えたあと考えさせられる作品でした」

 これらの感想を読んだ著者の紗倉さんは、感激しつつ口を開いた。

紗倉まな(以下、紗倉):私は映画でも小説でもありきたりな感想ばかり書いてしまうので、こんな風に感想を書ける人ってすごいと思うんです。言葉を愛されている方が大勢いらっしゃっているんだなって感じますね。はあちゅうさんも言葉を愛されている方だと思いますけど、その原点って何だったんですか?

はあちゅう:私は文字が読めない頃から電話帳を逆に持って読んでいるくらい、活字の近くにいたんですよ。とにかく文字が好きで、小学校にあがる前には鏡文字ばっかり書いていたらしくて。母に聞くと、2歳の頃にひらがなと絵だけの処女作を発表していたって(笑)。小学校にあがってからは日記を書いていて、それはいまだに続いているんです。

紗倉:そんな早い段階で!? 日記はいまも読み返したりするんですか?

はあちゅう:幼い頃のものを読み返すことはないですけど、9月25日に講談社から刊行予定の短編集『通りすがりのあなた』に掲載される話は、高校生の頃につけていた日記がベースになってますね。もともと、人前で全然喋れない子だったんです。人との距離感がうまくつかめなくて。それで言いたいことは書いて表現するようになっていったんですけど、まなちゃんはどんな子どもだったの?

紗倉:私もそこは似てるかもしれないです。全然人と喋らないし、家にいる時はたいてい書き物をしているような。だから、小説で会話文を書いていると、「あれ? 会話ってどうやってするんだっけ?」って振り返るくらいで(苦笑)。

はあちゅう:私、いまだにそれあるよ! パーティとかで初対面の人と会話している時、「この会話は成立してるのかな?」って自問自答しちゃう。だから人が大勢いるところは苦手なの。

 メディアで顔を見せる機会も多いふたりの、意外な素顔。話すことが苦手だからこそ文章表現の重要性を痛感したというふたりに、会場からは驚きの声が漏れた。そこからトークテーマは、互いの学生時代へとシフトしていった。

紗倉:私、国語の授業が苦手だったんです。筆者の思いを答えるのとか、本を読んだ感想とかが難しくて……。たとえば、夏目漱石の小説を一文が抜粋されていて、それに対する作者の思いを聞かれても、「この答えは本人に確認したの!?」とか思っちゃってたんです。だから国語は掴みどころがないなって感じていて、作文も苦手でした。

はあちゅう:私は、なぜか小論文のテストですごい良い点数をもらったりすることがあって、「もしかして、私って国語できるのかも」って思ってた。そもそも、本を読むこと自体が好きだったの。中学3年生の頃は夏の間だけでも300冊くらいは読んでたから。

紗倉:それはすごい!

はあちゅう:でも、読書カードを先生に提出したら、「こんなに読んでるわけないだろ!」って言われちゃって。それで、私は読むのが早いんだって自覚したんだよね。だけど、大人になって自分が書くようになってからは読み方も変わったんだよ。小説を読んでいても、「どうしてこういう表現ができるの!?」って何度も読み返したり書き写したりしてると、結構時間がかかっちゃって。

紗倉:はあちゅうさんと初めて対談した時にも感じましたけど(//ddnavi.com/news/366148/a/)、本に対する愛情があふれてますよね。ノートに質問をまとめてくださっていて、それって本や相手に興味がないとできないですよ。

はあちゅう:それはまなちゃんに特別興味があったからだけどね(笑)。

「私の作品は孤独感の象徴なのかもしれない」(紗倉まな


 書き手として活躍するはあちゅうさんと紗倉さん。しかし、学生時代の文章への向き合い方には違いがあったようだ。やがて議論は紗倉さんの創作秘話へと移り、そこではあちゅうさんが驚くエピソードが展開された。

紗倉:私、担当編集さんとバトルしたんです。特に二作目の『凹凸』では思いがあふれすぎてしまって、何万字とカットすることになってしまったんです。

はあちゅう:え! 何万字単位で削除したの!?

紗倉:はい。6万字くらい削りました……。

はあちゅう:それはすごい! それ、うまく継ぎ接ぎしてリサイクルできないのかな(笑)。

紗倉:隣で担当さんが「それは無理だ」という顔をしています(笑)。

はあちゅう:それだけ思いをこめた『凹凸』で、一番読者に伝えたかったメッセージは?

紗倉:もともと、家族をテーマにしたものが書きたかったんです。『最低。』を書いていても思ったんですけど、ある女の子のことを書こうとすると、その子の恋人や家族のことにまで話が及んでいって、その家族にもまた家族がいてって。つまり、私が書きたいのは家族のことなんだなって感じたんですよね。だけど、私の本って暗いんですよ。

はあちゅう:それは感じなかったな。むしろ、淡々と希望に向かっているような感じがありました。まなちゃんはよく自分の生活や作品を暗いって表現するよね。

紗倉:自分の作品は孤独の象徴なのかもしれないです。でも、私は孤独だからこそ書きたいなって感じることもあって……。はあちゅうさんは、どんな時に「書きたい!」って感じるんですか?

はあちゅう:私は「書きたい」よりも「書けるな」って思うことの方が多いかも。ただ、書きたいと感じた時はスラスラ書けるんですけど、直しがとにかくツライの。

紗倉:どんな直しが多いんですか?

はあちゅう:物語の作り方からの直しが多いですね。担当さんから「この物語の中で主人公はどう成長しますか?」って聞かれるんだけど、「成長……するんですかね……」って詰まっちゃう。こんなに小説が好きで読んできてるのに書けないってことが悔しい。おそらく、小説とは何かってことがまだわかってないんだと思います。すべての動作や表情、セリフに意味をつけて、話を動かさなくちゃいけない、って頭ではわかってるのに、書けない。表現力ってどうしたら上がるんでしょうね……。

紗倉:キャラクターに一貫性を持たせるのって難しいですよね。筆が進む時こそブレちゃう。

はあちゅう:そうなの!(涙)

文章で次のステージへと進もうとするふたりは、日々小説の難しさと対峙しているようだ。トークは白熱し、執筆時の裏話がいくつも展開された。もちろん、ここでしか聞けない話題に対し、観客たちは興味津々。イベント後半では、そんな観客たちからの疑問にふたりが答えるというスペシャルな展開が繰り広げられた。

対談後編に続く⇒//ddnavi.com/news/381977/

構成・写真=五十嵐 大