はあちゅう×紗倉まな「女性限定」トークイベントレポート【後編】

エンタメ

公開日:2017/6/16


 『凹凸』(KADOKAWA)発売を記念し企画された、女性限定トークイベント。紗倉まなさんがホスト役を務め、ゲストとして招かれたのは仲良しの作家・はあちゅうさん。ここでしか聞けないトークが炸裂したイベントレポートの後編では、ふたりが観客からの質問に真摯に答えた様子をお届け!

 前編はこちらから→//ddnavi.com/news/381942/

「書くことがうまい人は、面白いことを発見する才能を持っている」(はあちゅう


 文章を書くようになったきっかけや執筆時の苦悩を互いに打ち明けた、はあちゅうさんと紗倉さん。書き手としての真剣な表情を見せるふたりの議論は次第にヒートアップしていき、あっという間に予定時間が。ここからは観客との質疑応答へと移っていった。

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質問者:私はいま大学生で、SNSを楽しいことの忘備録として使っています。でも、社会に出たら忙しくなってしまって、楽しいことばかりではなくなっていくのかなって。そうなった時に、自分の言葉のストックや新しい引き出しがなくなってしまうのが不安なんですが、おふたりは忙しい中でどういう風に文章を書くことを意識されているんですか?

はあちゅう:『cakes』っていう会社を立ち上げた加藤貞顕さんがそのことに言及されているんですけど、書く人っていうのは「解像度が高い」と仰っているんです。普通の人たちからすると、何か特別なことがあるから書けるんだろうって思われがちなんですけど、書く人からするとそれは日常的なことなんですよね。日常の中に発見があるから、その人たちは書けるんだと。

紗倉:忍耐みたいなところもあると思います。初めは、どんな映画を見ても小説を読んでも、面白かった・つまらなかった意外の表現が出てこないんですよね。『感情類語辞典』っていう本があるので読んでいただきたいんですけど、それには感情をあらわすいろんな言葉が載ってるんです。それを読むだけでも感化される。新しい言葉を自分の中にストックしていって、いざそのシチュエーションがきたときに使うっていうことを繰り返すだけでも言葉が自分のものになっていく気がします。

はあちゅう:書くことがうまい人って、書く才能以外にも面白いことを発見する才能があると思うんです。同じ風景を見ていても、「そこを見てたんだ!?」って思うことがあるんですよ。なので、目の前にある日常風景の中に面白いことがないかなって探すと、書くこともうまくなっていくんじゃないかなって思います。

紗倉:勉強になる~!

はあちゅう:偉そうなコメントにしないで(笑)!まなちゃんも回答者だから!あくまで、私の考えですー!!

質問者2:おふたりとも本を読まれていて、自分の作品を書く時に他の作品に引っ張られてしまうことはありませんか?

紗倉:私、気に入った本の気に入った表現を何度も読んでしまうんです。そうすると、文章を書いていても無意識のうちに似たフレーズを使ってしまっていて怖くなることがあるんです。でも、自分が好きな言葉って絶対変わらないですし、その言葉に救われて書きたいと思った気持ちはウソじゃないんですよね。だから最近は、あまり怖がらずに書くようにしています。もちろん、「似てるかも」って気づいた時は調べますし、担当さんに読んでもらって厳しく指摘してもらうようにはしてるんですけどね。

はあちゅう:私は、文章って自分自身とほとんど一緒だと思ってるんです。たとえば、私自身は、両親や恋人、いままでの人生で関わってきたすべての人の影響を受けてると思うんです。文章もそれと同じで、これまでに読んできたすべての影響を受けているので、そこから生まれる文章はオリジナルのものだって言って良いんじゃないかなって。一回自分の体を通った言葉を、どんな状況でどんなふうに使うかは自分次第だと思います。だけど、特定の作品を読み込んじゃうと、知らず知らずのうちに似てしまうので、自分の小説を書いている時は他の方の作品を読み込まないようにしています。

「素の自分をさらけ出すと、共感が得られる」(紗倉まな


質問者3:紗倉さんのコラムを読んでいると、とても正直な方だなと伝わってきます。自分の弱さとか隠したい部分もすべてさらけ出すのは怖くないですか?

紗倉:最初の頃は、悪いところを見せたくないとか、人に好かれる部分だけを見せようとか思っていたんです。でも、それって人としての奥行きがないですよね。それで、自分が伝えたいことを発信しようって切り替えた瞬間から、文章が書けるようになったんです。もちろん、すべてがそうではないですけど、素の自分を見せた方が共感してもらえる時にそれを選択するという感じですね。

質問者4はあちゅうさんは以前、「彼氏がいなかった時の方がヒリヒリする文章が書けた」と仰っていましたけど、いまはその頃とは違う表現の仕方をされています。私も孤独じゃないと創作活動はできないと感じているんですけど、はあちゅうさんにはいまどんな景色が見えているんですか?

はあちゅう:昔書いた文章といまの文章が変わってきているというお話ですけど、その時々で経験してきたものが違うのでそれは当たり前なのかなって思うんです。だから、その時に書けることを残し続けることが大事なんだと思います。恋愛コラムを書いていた頃はいろんな男性とデートしてましたけど、いまは特定の相手がいるんです。そうなると新しいものには出会わないんですけど、彼ひとりの中から出てくる違う面がどんどん見えてくるんですよね。そんな風に、日常に慣れていく中でも新しいものを見つけようとする姿勢が大事なのかなって思ってます。だから、書いている文章には自分の人生が色濃く出ますね。

 この他にも大勢の観客から質問が寄せられ、それに対し一つひとつ答えていくはあちゅうさんと紗倉さん。サービス精神旺盛なふたりは、イベントの最後にツーショット撮影タイムとサイン会も実施し、会場を沸かせた。

 こうして幕を下ろした今回の女性限定トークイベント。実は9月に第二弾の開催が決定しているのだとか。次は9月25日(月)に短編小説集を発売するはあちゅうさんがホスト役を務め、映画『最低。』の公開を控える紗倉さんがゲストに招かれるという。またそこでも貴重な話が聞けるはず。一見ゆるふわだが中身はハードな書き手であるふたりが繰り広げるトーク、次回も必聴だ。

構成・写真=五十嵐 大