【『たまこラブストーリー』レビュー】恋をする全ての人へ、この映画を贈る

アニメ

更新日:2014/5/13

青春時代と呼ばれる中学、高校生時代は、多くの人にとって人生の中でいちばん輝いている時間だ。そんな時代に、人は様々な経験をしていく。勉強に励んだり、部活動に打ち込んだり、友人たちとバカ騒ぎをしたり……そして、恋をしたり。

そんな“恋”に、ひとりの女の子が気づき、向き合っていくお話。それが『たまこラブストーリー』だ。

※こちらの記事は一部ネタバレが含まれます。未視聴の方はご注意ください。
 

©京都アニメーション/うさぎ山商店街
 
『たまこラブストーリー』は、京都アニメーション制作のオリジナルTVアニメ『たまこまーけっと』の続編となる劇場版。テレビシリーズの最終回から時は流れ、高校3年生に進級した主人公の北白川たまこ。そして、彼女の幼馴染である大路もち蔵を中心にした恋のストーリーが描かれる。『たまこラブストーリー』はただひたすらに王道で、甘酸っぱく、キラキラとした作品だ。


●たまこ、むけました。もちぞう、やけました。

向かいにある同じ餅屋の子供であり、幼馴染であり、家族のように感じていたもち蔵から愛の告白をされた衝撃に、最初は立ちすくんで逃げまわることしかできないたまこ。その一方で、今まで続いてきた関係を壊すかもしれないと危惧するたまこへ、勇気を振り絞って告白し、さらに卒業後に東京の大学へ行くという選択が正解なのか、悩み続けるもち蔵。

大きな岐路を前にして立ちすくむ二人を支えるのは、いつも側にいて見守ってくれている家族や、ふたりと同じように青春時代を過ごす親友、そして生まれ育った「うさぎ山商店街」の住人だ。家族愛、親愛、隣人愛、そして…恋愛。二人は多くの人達からたくさんの“愛”に包まれながら、一歩ずつ、今の自分と向き合っていく。その姿はひたすらに眩しい。


●実写らしさとアニメらしさを同居させる心地よさ

そんな二人の物語が描かれる『たまこラブストーリー』には実写映画、特に往年の日本映画を意識した描写が数多く見られる。こうした傾向は最近の劇場用アニメでは多数散見されるが、本作品はその意識がより強い。特にわかりやすいのは、公式サイトのインタビューで山田尚子監督も触れている「望遠レンズを意識したレイアウト」だろう。遠景カットで背景とともに収められた登場人物達からは、そこに息づく彼らの瑞々しい想いや輝きがより強く感じられる。特に加茂川を舞台イメージとした告白のシーンは、息を呑むほどに美しい。

同時に、アニメの強みを活かしたシーンも多い。たとえばもち蔵に告白された直後、たまこが商店街をひた走るシーン。商店街の住人達の挨拶など周りの音は聞こえているのに、画面に映るのは、水彩の絵の具をぶちまけたような空間を走るたまこ。もち蔵の告白に戸惑い、さまざまな感情が交錯するたまこの心情が美しく表現された、『たまこラブストーリー』屈指の名シーンだ。
また、いつまでも掴みきれないバトンやコーヒーの味と心理状況をクロスオーバーさせた小道具の演出も見事。実写とアニメの両方の利点を活かしつつ、登場人物達の感情を丁寧に描写したからこそ『たまこラブストーリー』は非常に美しい作品性を持つ。それはまるで、二次元を介した実写映画さながらだ。

さらに、スタッフ陣が「『たまこまーけっと』の続編を映画で公開した」意図にも注目したい。京アニらしい圧倒的なクオリティを誇ったTVアニメ『たまこまーけっと』では、その日常アニメとしてのスパイスとして鳥のデラ・モチマッヅィや、ヒロインのひとりであったチョイ・モチマッヅィなど、“日常の中の非日常“を強調するキャラが活躍した。ただし、彼女達は本編にはほぼ登場しない(その分、同時上映の短編『南の島のデラちゃん』で彼女達の姿を見られる配慮は小憎い)。

その意図は、やはりストレートでリアリティのある、等身大の少年少女のラブストーリーに浸ってもらいたいというものだろう。もちろんキャラクターへの思い入れなどを考えるとテレビ版を観ているほうがベターだが、「『たまこラブストーリー』は『たまこまーけっと』を観ていなくても楽しめる」と言っても過言ではないほど、劇場版単体でも楽しめるようになっている。


●すべての人へ向けた恋と愛のお話

『たまこラブストーリー』は青春時代を過ごす若者だけでなく、すでに大人になった世代も充分に楽しく観られる。青春は、もちろんその瞬間を生きる若い世代のもの。しかし大人なって振り返るからこそ、その時代の甘酸っぱさやほろ苦さ、葛藤などのモラトリアムをより深く味わえる。

劇中、たまこともち蔵が直面する苦悩…、それは「確実に迫りくるタイムリミット」だったり「抗いようのない環境の変化」だったりと、たまこ達と同じ世代には共感を、過去に彼らのように悩み、もがいた大人にはノスタルジーを呼び、どちらにも深く突き刺さる普遍的なテーマだ。

また、大人世代は青春時代を過ごす彼らを見守る家族の愛情にも心を動かされるはずだ。たまこの父・豆大がもち蔵に語る本心や、レコード屋の主人・八百比の含蓄のある言葉には、大人になったからこそ、理解できるものがある。他にも糸電話やカセットテープといったキーアイテムも懐かしさを覚える。よって、『たまこラブストーリー』は、同世代だけでなく、酸いも甘いも苦いも経験してきた大人にこそ、心から堪能できる作品だろう。

もし、今回のレビューを読んで興味を覚えたなら、ぜひひとりではなく家族や友人、意中の相手や恋人など、誰かと一緒に劇場に足を運んでほしい。この映画から得られる“人を愛する素晴らしさ”は、恋愛を望む人には勇気を、すでに想いを叶えた人には確信を与えてくれるはずだろう。

多くの愛に包まれ、溢れた本作品を通じて。

文=鈴木悠太、編集=はるのおと
 

たまこラブストーリー

・『たまこラブストーリー』公式サイト
http://tamakolovestory.com/