【アニメの法則】「美人漫画家役」を演じることの多い声優は?

アニメ

更新日:2014/9/24

 高校二年生の男子ながら夢野咲子のペンネームで人気少女漫画家として連載をこなす野崎梅太郎、そしてそんな野崎くんに惚れこんで押しかけアシスタント状態の佐倉千代との関係を描いた『月刊少女野崎くん』。惜しまれつつ最終回を迎えた本作ですが、二人を取り囲むこれまた個性の強いキャラクターの中で、ひときわ耳目を引き付けるのが、先輩少女漫画家の都ゆかりではないでしょうか。
 現役女子大生漫画家で、大人びた素敵な女性。なのに押しが弱く、担当の前野に言われるまま“たぬき”を漫画に出してしまうずれた部分も可愛いです。何より川澄綾子さんの声がいかにも美人漫画家という感じでたまりません。
 川澄さんと言えばかつて「柔の川澄」「剛の中原」と並び称されたヒロイン声優であるのみならず、女性漫画家声優としても超一流のキャリアをお持ちなのです。
 今回は、そんな彼女の「漫画家役」を振り返ってみたいと思います。

【セラフィムコール】

 2010年、横浜市沖の人工島にある「横浜ネオ・アクロポリス」に住む11人の少女たちが体験する、あるいはシビアな、あるいは心温まる、あるいはわくわくドキドキの体験を描いたオムニバスストーリー。原作は「電撃PCエンジン」の読者参加企画、制作はサンライズ。前年放送の『センチメンタルジャーニー』が「12都市12少女物語」を銘打ったオムニバスだったのにあわせて、「2010年11少女物語」のキャッチフレーズが付けられました。
 近未来を描いていたはずの物語の設定年代がいまや4年前というのには少し気が遠くなりますが、ぬいぐるみに仕込まれた盗撮カメラ視点を貫いたりほぼ全く同じ映像の台詞だけ差し替えて放送したり延々小津安二郎のパロディをしたりの実験精神は今見ても全く古びたところを感じさせません。
 この作品で川澄さんが演じたのは、海邦高校二年生にして人気少女漫画家の松本くるみ。自分の作品の内容にリアリティがないことに悩んだ挙句周囲を巻き込んで実地でストーリーの検証を始める……とまとめると、まるで『野崎くん』を先取りしたようなエピソードでヒロインを務めます。作品と現実が混淆するややメタフィクションっぽい展開はありますが、本作ではおとなしい部類のエピソード。漫画家声優川澄綾子はまずまず無難なスタートを切ったのでした。

【ケメコデラックス】
 不気味な二頭身の少女、ケメコに突如おしかけられ、嫁を名乗られてしまった小林三平太。ケメコの巻き起こす大騒動に巻き込まれて、三平太はへとへと。そんな中、実はケメコは幼馴染の美少女エムエムが着ぐるみ状のロボットを着込んだ姿だと知って――?  いわさきまさかずさんの原作漫画を水島勉監督がアニメ化した、2008年放映のスラップスティックコメディの佳品です。本作で川澄さんが演じたのは、三平太の母親で売れっ子漫画家の小林ふみ子。眼鏡でナイスバディの色っぽいお母さんですが、この作品のヒロインの御多分に漏れず、性格は破綻しています。締め切りは守らない、執筆中は身だしなみには気を使わない、編集の葵ちゃんを振り回しに振り回す、大酒のみで、子持ちの既婚者なのにミスコンに出たがるなど奇行が収まらない……。
 2008年と言えば、川澄さんがちょうど母親役にも進出し始めたころ。そんな時期に漫画家である母親の役というピンポイントなキャラに起用される、川澄さんの漫画家声優力の高さを感じさせます。

【バクマン】
 人気漫画家だった過去を持ちながら落ちぶれて死んだ叔父を持つ中学生、真城最高(サイコー)は、ある日、同級生の高木秋人(シュージン)からサイコーが絵、シュージンが原作で漫画を描こうと誘われます。しかし、叔父のこともあって、一旦はその申し出を断ります。が、あこがれのクラスメイト、亜豆美保が声優を目指していることを知り、自分の作品がアニメ化されたら彼女を主演させる、そのとき結婚しようと約束します。こうして、シュージンとサイコーのトップ漫画家を目指す日々が始まるのでした。
 恐らく、近年の漫画家漫画では最大の注目を受けたのがこの『バクマン』の原作。『Death Note』の原作大場つぐみ作画小畑健のゴールデンコンビが「週刊少年ジャンプ」の内幕を織り交ぜて描いた漫画家たちの熱い物語のアニメ化作品です。こういう大作には、漫画家役声優界のトップランナーである川澄さんは当然呼ばれるのです。
 川澄さんが演じたのは、大学院生の先輩漫画家・蒼樹紅。泣きぼくろが色っぽい、これまた漫画家には珍しいくらいの楚々たる美人です。男社会の「ジャンプ」に放り込まれた美女なので、望まないのに男女関係のいざこざに巻き込まれる薄幸のヒロインです。

 川澄綾子さんは、とても澄んだ少し細くて美しい声の持ち主。その一方で浮世離れした印象を与えず、いい意味で庶民的・世俗的です。「漫画家としては場違いなくらい美人だけど、職業人っぽい地に足の着いた感じもある」というラインで探ると、必然的に川澄さんの声が求められるのでしょう。意外なところに意外な適性が眠っているものです。

 これからも、漫画家役を多数演じる声優「川澄綾子」さんから目が離せません。

文=夏葉薫