これが本気の業界もの! アニメ制作側から見た新アニメ『SHIROBAKO』が持つ「それっぽさ」とは?

アニメ

更新日:2020/8/6

今期アニメも次々とスタートし、さてどれを観ようかということでお悩みの皆様にぜひおすすめしたい作品。それが今回ご紹介するP.A.WORKSの新作『SHIROBAKO』です!



 本作はアニメ史上でも非常に珍しい「アニメ業界もの」。アニメ業界を目指す5人の女の子達が「いつか一緒にアニメを作ろう」と誓い合い、プロの現場で試行錯誤、やがて成長していく――そんな作品です。正直最初は、かわいらしい少女達のビジュアルに「なんちゃって」の空気を感じていました。が、1話を観て衝撃走る! これはかなりの「ガチ」業界もののようです。筆者もかつてアニメ制作会社に籍をおいていたことがあり、その空気に懐かしい感覚すら覚えてしまいました……ほろり。

 懐かしいと感じられたということは、リアルだと感じられたということ。用語の的確さやスタジオの情景描写だけでなく、どこのスタジオ出身かを問われたり、受け答えでトイレの話をしていたりといったことは、確かに日常茶飯事でした。

 また、本作にはどうやらキャラクターにモデルになった人物がいるようで、再現度も中々のもの。武蔵野アニメーション社長の丸川正人は元マッドハウスで現MAPPA代表の丸山正雄氏がモデルであろうと思われますが、料理が趣味でスタジオでも作って振る舞っていたことは有名な話です。

 それとすごく大事なポイントですが、意外と制作に女の子が多くて、しかもかわいかったりするのもリアルだなと感じました。制作、ここ最近女の子ばっかりの印象です。

 さてさて今回はそんな中でも、一応業界人の端くれであった私の目から見た、第1話で「ここは本当にガチンコっぽいな」と思えたポイントを一点、ご紹介したいと思います。

■「社内」に頼るということ

 個人的に一番「ああ! それっぽいなあ」と思えたポイント。それが「社内」という言葉の使いかたでした。

 超重要カットがコンテ撮で、原画が上がらない。代わりに描いてもらう誰かが必要だ! そんな時にデスクの本田豊さんが焦り顔でこう言います。「社内で誰かできないですかね……」。これです、これがリアル! 困ったときの社内頼み!

 アニメ制作はその性質上、ひとつの会社だけで行なわれるわけではありません。話数によっては、制作協力していただく会社も出てきますし、もちろん、フリーのアニメーターに助力を乞うことも多い……いや、むしろそれがほとんどな場合もあります。そんななか、たとえばオープニングの最重要カットを外部の巧い人に頼んだけれども、こぼしてしまった(上げられなかった)場合、もう時間がない! という時はまず「社内」を頼るのがセオリーなんです。

 なぜなら「社内」の人間は、最低限の力がある(はずだ)からです。きちんと自社で動画から育てて、原画以上の力があると認められた人間が「社内」の人間。同じ場所にいて顔が見えるため管理もしやすいし、逃げられることもまずない(社員であれば尚更)ということで、最悪の事態も避けやすいのですね。

 そんなわけで、焦った時にパッと本田さんが「社内で~」という言葉を使ったのには、このデスクがかなり「守り」の人間であるという人物描写になっていることも相まって、「ありそうだなあ、見事だなあ」と感心させられました。そして、さらに私が「おっ、これは……」と驚いたのはそのあとです。

■会話から伺える武蔵野アニメーションの事情

 ここで、社内の人間として4人――その内、ひとりは作品性に対応できず、ひとりは新人――の名前が上がるわけですが、それ以上が出てきません。これもなるほどなあ、と思わされました。つまりこれは、会社のキャパシティ、具体的に言うと「ライン」がそう多くはない会社だということを示しているのです。

 アニメ制作会社には、大きな会社であればあるほど、この「ライン」を抱えることになります。「ライン」とは制作チームのこと。通常ラインプロデューサーひとりにつき、デスクがひとり付き、そのチームでアニメーションを制作します。

 同じアニメ制作会社なのに、クオリティに差があったり、映像傾向が違ったりするのは、監督の個性による違いだけでなく、ここに起因することも多いのですね。

 なので、ここで業界の人間であれば、「ああ、この会社は本数をあまり持てない会社だな」と思い描くことができ、大体の会社の規模がわかる、という寸法です(規模が大きくなっても、あえてラインを増やさない会社もあります)。ラインが3つや4つ以上あれば、ほかのチームから一時だけ借りてくるといったことや、放映が終わって次の作品の準備をしているスタッフを借りてくるといったことも可能ですが、それができない。つまりは、つねに武蔵野アニメーションはこういう時にピンチになりやすい環境であるということも示しており、だからこそ、本作の緊張感もより真実味が増すわけです。これから何回本田さんが「万策尽きたっ!」と言うのか楽しみ……もとい不安でなりません……。

 そして、もうひとつ。その時に出てきた名前を含めたやりとりも、ちょっと面白いかなと。というのも、その会話の内容から、この会社に「ほどよいベテラン原画マン」がいないということが推察できるからです。

 杉江さんは明らかにベテランという風ですが、見た感じかなり歳がいっているようです。劇中でも「萌えアニメなんてできるわけねーじゃん」という台詞がありますね。

 一方、ほかの人間はこれだけの重い(大変な)カットは「まだ無理」という烙印を押されてしまいます(ただし、これは演出の円が言う「まだ無理」が能力的にと言っている場合の話です。担当カットが終わらないという意味であれば、むしろ先の「ラインがない」という話につながってくるのですが)。つまり、この会社には萌えアニメにもギリギリ対応できる年配のアニメーターがほとんどいない。キャラクターデザインの小笠原綸子と総作画監督補の井口祐未ですら、まだ「年配」といった風ではありません。

 「萌えアニメに対応できる年配がいない」ということは、この会社に空白の期間があったということ。丸川社長が「今回は7年ぶりの元請け作品」と言ったことや社内ポスターを見る限り、武蔵野アニメーションがかなり歴史のある会社だということは伺えます。しかし、おそらく、本当に10年以上も昔からこの会社は大きな看板になるような仕事がなかったのではないでしょうか。そのため、当時大活躍したベテランアニメーターだけが社内に残り、他の人たちは会社を去っていった……そんな切ない気にさせます。

 さすがにこれは誇大妄想過ぎかもしれませんし、こんなことを思うのは業界関係者ぐらいかもしれませんが、しかし「社内」という言葉の前後だけを拾っても、これだけ推察ができる本作はタダゴトではありません。もちろん「こんなことは中の人達だけがよろこんでいるだけで、実際のドラマとはなんの関係もない」と切って捨てることは簡単です。しかしながら私は、この作品の「基本姿勢」として、細かいところもガチンコで作ってやろうという気概を買いたいと思います。

 中の人間でもこうした「あるある」感が満載の『SHIROBAKO』。そのガチンコ具合はきっと今後ドラマの面でも活かされてくるはず。本作の行く末に期待しております!

『SHIROBAKO』公式サイト

(取材・文=揚田カツオ)