名作揃い!? 美少女ゲームシナリオライターのオリジナルアニメの系譜を振りかえる

アニメ

公開日:2014/11/2

 10月は番組改変の季節。今季もまた、数多くの新番組が始まりました。その中でもひそかに熱い注目を集めているのが『天体のメソッド』と『結城友奈は勇者である』ではないでしょうか。

 『天体のメソッド』は『ONE~輝く季節へ~』『KANON』で一世を風靡した美少女ゲームシナリオライター・久弥直樹さんが手がけた、久々の新作。『結城友奈は勇者である』は近年TVアニメのシナリオにも進出している、『姉、ちゃんとしようよっ!』『つよきす』などで知られる美少女ゲームシナリオライター・タカヒロさん初の原案オリジナルアニメです。

 90年代から00年代前半にかけて、美少女ゲームの世界は自由で尖った創作ができ、そしてそれが評価される場所でした。今回は、そんな美少女ゲームシナリオライター原案オリジナルアニメの世界を振り返ってみたいと思います。

Sola

 空の写真を撮るのを趣味にしている少年・森宮依人が夜明け前の公園で出会った不思議な少女・四方茉莉。夜明けとともに姿を消した彼女は、永遠の命を持ちながら太陽の下を歩くことができない呪われた存在、“夜禍”だった。茉莉のことが何故か気になる依人は、やがて自らの出生の秘密と茉莉の悲しみに触れることになる……。

 『天体のメソッド』の久弥直樹さんが手がけたオリジナルアニメです。アンケートサイト「VSist」で2007年のベストアニメにも選ばれた名作として知られています。繊細な会話といい、選び抜かれた小道具の絶妙な使い方といい、端正で鮮やかな青基調のビジュアルといい、美少女ゲーム的な想像力の最良のセンチメンタルな部分が存分に生かされた、高評価も頷ける作品です。また。アニメの脚本家としての活動実績のない美少女ゲームシナリオライターの原案・脚本によるTVシリーズの嚆矢としても歴史に残る一作と言えるでしょう。

 本作では、久弥さんは原案と4話分の脚本として参加。初アニメ脚本とは思えない腕前を披露しています。

Angel Beats!

 音無結弦は、目覚めると学園の片隅らしき場所にいた。そこにやってきた少女・仲村ゆりにここは死後の世界だと告げられる。納得のいかない音無はゆりたちが襲っていた謎の少女・天使に話しかけるが、天使もまたここは死後の世界だと言うばかりで、音無の胸を突然刺す。が、音無は死ななかった。それもそのはず死後の世界では、どんな怪我を負おうとも死ぬことはないのだから。音無は天使に対抗するゆりたちの組織、死んだ世界戦線に参加することにするが……。

 P.A.WORKS初のオリジナルTVシリーズでもあった、2008年の大ヒット作です。『ONE』『KANON』『AIR』で知られる麻枝准さんが原案・シリーズ構成・全話脚本を務めました。

 麻枝さんは、久弥さんのTactics・key時代の同僚であり、一面ではライバルでもあったシナリオライター。この初アニメでも、絵になるセンチメンタリズムの統一感で攻める『sola』とは対照的に、スラップスティックなギャグとそこからシームレスにつながる悲劇的な展開の落差で視聴者の感情をめちゃくちゃに掻き立てる狂騒的な作品を仕立ててきました。冷静に考えるとちょっとおかしな設定でも、見ている最中は気にさせないパワーのあるアニメです。

BLASSREITER

 死体が蘇り、物と融合し、人々を襲う融合体の登場により人類が危機的状況に晒された近未来。融合体を生み出す悪魔の力を持ちながら人間としての意識を保つブラスレイターと呼ばれる者たちがいた。彼らは正気を失った融合体、デモニアックを狩る一方で、ブラスレイター同士の戦いに巻き込まれていく――。

 『魔法少女まどかマギカ』の大ヒットで知られる虚淵玄さん。彼もまた、『Phantom』や『鬼哭街』などの美少女ゲームを手掛けていた美少女ゲームシナリオライター出身のクリエイターです。

 その、オリジナルアニメ初挑戦が本作。現代日本を思わせる、学園やその近辺での恋愛・青春物語という『sola』や『Angel Beats!』とは全く違う、終末的なバイオレンス作品で、美少女ゲーム的というよりは、80年代末から90年代初頭のOVAっぽいルックのSFアニメです。虚淵さんは本作でシリーズ構成と24話中8話の脚本を担当しました。

 もともと、虚淵さんは美少女ゲームの世界でもバイオレントでハードボイルドなアクションをメインにした作品を手掛けていました。90年代末から00年代前半は、美少女ゲームの全盛期。その全盛期の美少女ゲームの世界には、王道の学園もののみならずSFアクションを受け入れる度量があったのです。

DOG DAYS

 サーカスアクションとアスレチック競技に燃える中学1年生、シンク・イズミは、ある日突然異世界フロニャルドに飛ばされてしまう。そこで出会ったビスコッティ王国のミルヒオーレ姫は、シンクに勇者として連戦連敗中の隣国との「戦」に出てくれないかと頼み込む。戦いと聞いて怯むシンクだったが、フロニャルドでの「戦」とは国民参加型のアスレチックショーだと知って勇気百倍。ミルヒオーレ姫の勇者として「戦」に赴く!

 「魔法少女リリカルなのは」シリーズで知られる都築真紀さんもまた、美少女ゲームシナリオライターとしての活動からアニメ界での活躍のチャンスを掴んだクリエイターのひとり。元漫画家で、シナリオのみならずキャラクターデザインまで自分で手掛けるマルチクリエイターです。ゲームクリエイターとしては「とらいあんぐるハート」シリーズが代表作。『とらいあんぐるハート3』の人気キャラクター・高町なのはを主人公にしたスピンオフがアニメに本格的に関わるきっかけとなった『魔法少女リリカルなのは』なのです。

 そんな都築さんが原案を務めた初めての完全オリジナルアニメが、この『DOG DAYS』。あたたかいコミュニティの中での物語であり、ゲームでも都築さんが拘って描いてきた武術を用いたアニメでもあります。人が死なない、楽しくてアツい戦争の物語。この徹底して陽性の祝祭的な世界もまた美少女ゲーム的な想像力の一つの形でしょう。

 このほかにも、岡田麿里さんも美少女ゲームに参加したことがあるそうですし、『雫』『痕』『ToHeart』の高橋龍也さんのように美少女ゲームからアニメ脚本に活動の場を移しているクリエイターもいます。また、アニメから美少女ゲームに移った人、美少女ゲームでも仕事をした人は数知れない、と言っていいでしょう。美少女ゲームの土壌にまかれた種がこれからどんな花を咲かされるのか、これからも楽しみです。

文=夏葉薫