アンはなぜ赤毛を嫌がっているの?「赤毛のアン」の謎をとき、物語を味わい尽くす一冊【書評】
PR 公開日:2025/5/8

世界中で愛読され、日本でも多くの女性たちの心に深く刻まれてきたL・M・モンゴメリ作の『赤毛のアン』。アニメ化や映画化もされた本作は児童文学の名作として読み継がれているが、実は子ども向けに書かれたものではないということは、あまり広く知られていないのではないだろうか。『赤毛のアン』は、年齢を重ねてこそ感じられる豊かな味わいに満ちている。そんな、大人の贅沢な『赤毛のアン』の楽しみ方を教えてくれるのが、本書『なぞとき赤毛のアン』(松本侑子/文藝春秋)だ。
著者は、作家・翻訳家で、『赤毛のアン』シリーズ全8巻の全文訳を手がけた松本侑子氏。小説の舞台であるカナダのプリンス・エドワード島に赴き、モンゴメリの親族に取材を重ねて、長年にわたり『赤毛のアン』を研究し、大人の文学作品としての魅力をさまざまな角度から伝えてきた人物だ。
本作で綴られるのは、そんな『赤毛のアン』をめぐる謎ときと物語の驚きの背景だ。作中に登場する英文学の一節や詩に関する考察や、物語とキリスト教の関連、また、19世紀末のプリンス・エドワード島での暮らしなどを紹介する。さらに、講演会などでよく質問されるさまざまな疑問にも回答していて、『赤毛のアン』について理解が深まる解説が満載だ。写真や資料も交えた「写真でたどるアンの世界」や「写真でたどるモンゴメリの生涯」の章も、物語の舞台と作者の生涯を旅するような心地に浸れて楽しい。

特に大人の読者の心を揺さぶるのが、「秘められた愛 マリラ、マシュー、ギルバート」の章だ。農場のグリーン・ゲイブルズを営む60代のマシューと50代のマリラという兄と妹、そしてアンに思いを寄せる少年・ギルバートの3人が抱くアンへの愛と心の変化を、作中の彼らの行動や言葉から読み解いていく。中でも、厳格で合理的だったマリラが、アンを育てることで柔らかな愛情深い女性へと変化していく姿は感動的だ。著者も思い入れが深いというマリラの言葉や振る舞いが丁寧に紹介されていて、中年を過ぎてからのマリラの成長と生き直しに、人生の希望を抱かずにはいられない。

あとがきにも、『赤毛のアン』の魅力が余すところなく綴られている。第1巻『赤毛のアン』以降のシリーズは、アンが50代になり、アンの息子たちが戦争に行く時代まで続いていく。語り尽くせないほどの話題とドラマに溢れた『赤毛のアン』という物語が生まれた奇跡を、本書を通じて改めて実感する。
本書は、物語に親しみ始めた子どもを持つ家庭にもおすすめだ。『赤毛のアン』を読む中で、アンのふとした言葉の意味や、馴染みのないアイテムについて「もっと知りたい」と感じる子は多いだろう。たとえば、アンはなぜ赤毛を嫌がっているのか。ラズベリー水ってどんな味? グリーン・ゲイブルズに来たアンが名を聞かれて「コーデリアと呼んで」と答えた理由、などなど。本書で得た知識が親子のコミュニケーションを促し、子どもはさらに『赤毛のアン』の物語世界を深く味わえるはずだ。2025年4月からは、『赤毛のアン』シリーズを原作にした新テレビアニメ『アン・シャーリー』がスタートしたところ。アンの物語に初めて触れる子どもが増える今こそ、本書『なぞとき赤毛のアン』を手に取ってみてはいかがだろうか。
文=川辺美希