SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第52回「親知らず」
公開日:2025/10/27
あまり知られていないが実はすんごいんです、みたいなものってのは、案外世の中にたくさん溢れているような気がする。実はチンパンジーの握力が300K gあるとか、タコの知能が人間の三歳児と同じくらいあるとか。別段これらは知っていたところでなんの役に立つわけでもなく、実際チンパンジーとかタコを目撃した時に、そういえば、ってちょっとだけ思い出すか、頼まれてもいないのにひけらかす押し付けトリビアの一つくらいにしかならない。これらの事実は、ただの事実として、益にも害にもならずそこらへんにコロコロ転がっている。
でも中には、有益どころかもっと周知の事実として存在すべきだろう、と思わずにはいられないものもある。私は先日それを心底思うに至り、微力ながら声を大にしてこの真実を世に知らしめたいと強く思ったのだ。
まずは大衆に問いたい。ドライソケットって知ってる?
知らないよね。知らない人が殆どだと思う。一応私も身近な人に訊いて回ったが、これを知っている人はたった一人だけで、あとは頭上にハテナを浮かべるだけだった。一体これが何か、という説明は、私が先日親知らずを抜いたという話と合わせてする必要があるように思う。
おかげさまでライブや撮影など、ありがたいことに人目に触れる機会をたくさん頂けるようになった。ただついこの間、公に人目に触れることのない六日間があった。私はこの機を逃すまいと、そこに抜歯の予定を入れたのだった。
ちなみに慢性的に痛みに悩んでいたというわけではなかった。ただ横向きに、しかも右下のかなり深い位置に潜む親知らずによって、この先強い痛みが生じる可能性があるので、事前に処置できたら良いですね、と歯医者さんに兼ねてから言ってもらっていたのだ。なので機を見てやってしまおうじゃないか、と常々思っていた抜歯をようやく実行に移せたという感じ。
抜歯怖いよオ、とやっと抜けるよオ、の二つの気持ちと財布だけ持っていざ当日。深いところにあったことと、親知らずが大きかったことにより、難航はしたものの無事に終了。「麻酔切れたら痛いです」というおっかない言葉と、痛み止めと財布を持って帰宅。
言葉通り、その夜はなかなかに痛く、ヒーヒー言いながら頑張って就寝。翌朝腫れてる右のほっぺたを見て、鏡の前で笑うなどしたり。
三日目から腫れと痛みは落ち着くとのことだったが、それを実感できたのは四日目の朝。言われてみれば顔の形違う? くらいに落ち着いた頬の腫れと、それに伴うわずかな痛み、それらとのお別れの時は着実に近づいていた。
はずだった。
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中
