古川琴音さんが選んだ一冊は?「私まで千年の時を生きたよう。一緒に旅した気持ちになりました」
公開日:2026/3/6
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年7月号からの転載です。

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、古川琴音さん。
古川さんがこの本を読んだのは、ドイツに向かう機中。終始うっとりした気分で、千年の時を超える恋物語に浸ったという。
「現代から始まり、夢の中で江戸時代、平安時代と旅するのですが、それぞれ違う3つの魂なのか、ひとつの魂なのか、曖昧な表現がとても素敵なんです。しかも、どの時代に行っても必ず巡り会う人がいる。それも運命の恋というには平凡なかたちで、すっと人生に入ってくるんですね。『袖振り合うも他生の縁』と言いますが、心が通じ合う人とは前世から縁があるのかもしれない。私にもそんな出会いがあるのかもと信じさせてくれる小説でした」
川上弘美さんが紡ぐ言葉の美しさにも、酔いしれたそう。
「川上さんの言葉の運び方は、きれいな小川のよう。流れに乗るのが心地よく、気がつくとまったく知らない世界に連れていってくれます。江戸時代には吉原のほの暗さや人間関係の濃密さを、平安時代には自分の体と魂が溶けて他の人と共有しあう感覚を体感したような気持ちになりました。読後は、私まで千年の時を生きたような心地よい疲労感とちょっとした寂しさがあって。この本と一緒に旅した気持ちになりました」
そんな古川さんの声優初挑戦作『花緑青が明ける日に』は、立ち退きが迫る花火工場・帯刀煙火店と、そこで育った若者たちを描いた長編アニメーション映画。古川さんは、帯刀兄弟の幼なじみ・カオルを演じる。
「3人の中で、最も葛藤を抱える役です。店の廃業を前に、帯刀家の兄・千太郎ほど現実的にもなれなければ、弟の敬太郎ほど本能的に行動することもできない。そのもどかしさにカオル自身が一番苛立っています」
伝統の花火や古い街が失われていくさまも、物語を通して描かれる。
「故郷とは、その土地で暮らす人々の営みを含むもの。故郷の魂だった帯刀煙火店が、人々の生活と切り離されていくことに寂しさはありますが、監督はその現実を前向きに捉えています。私も元気をもらいました」
四宮義俊監督は、日本画家出身。映像美にも期待が高まる。
「日本画や花火は、日本の伝統を掘り下げていくものです。いっぽうアニメは、新しい技術と感性を取り入れて世界に発信するもの。真逆のベクトルがひとつになった、四宮監督ならではの作品です。打ち上げ花火のように感情がはじける瞬間を、手に汗握りながら見守り、五感すべてで受け取ってください」
取材・文:野本由起 写真:干川 修
ヘアメイク:伏屋陽子(ESPER) スタイリング:杉本学子(WHITNEY) 衣装協力:ジャケット8万2500円(税込)(HOUGA)、その他スタイリスト私物
ふるかわ・ことね●1996年、神奈川県生まれ。2018年デビュー。21年に第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した映画『偶然と想像』の第一話で主演を務める。近年の主な出演作に映画『みなに幸あれ』『言えない秘密』、ドラマ『海のはじまり』、NHK大河ドラマ『どうする家康』などがある。

『三度目の恋』
川上弘美 中公文庫 946円(税込)
いとしいひとと結婚したものの、彼からは女性の影が消えない。そんな中、梨子は高丘さんに教わった「魔法」で、むかしむかしの夢を見る。あるときは江戸吉原の遊女、さらには平安の世の女房として、梨子はさまざまな愛を知り……。『伊勢物語』をモチーフに紡がれる千年の恋の物語。

映画『花緑青が明ける日に』
原作・脚本・監督:四宮義俊 キャラクターデザイン:うつした(南方研究所) 作画監督:浜口頌平 美術:馬島亮子 音楽:蓮沼執太 声:萩原利久、古川琴音、入野自由、岡部たかし 製作:A NEW DAWN Film Partners 制作:アスミック・エース/スタジオアウトリガー/Miyu Productions 配給:アスミック・エース 2026年全国公開
●町の再開発が進み、立ち退きが迫る花火工場・帯刀煙火店。帯刀敬太郎とその兄・千太郎、幼なじみのカオルは、幻の花火〈シュハリ〉に希望を託す。
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