知られざる「書体デザイナー」の仕事とは。文字で社会貢献する、書体とユニバーサルデザインの話【書評】

文芸・カルチャー

PR 更新日:2026/3/20

みんなの「読める」をデザインしたいわたしは書体デザイナー
みんなの「読める」をデザインしたいわたしは書体デザイナー(高田裕美 / Gakken)

 文字の形をあらわす「書体」は、私たちの身の回りで無数にあふれている。そして、私たちの目にふれる書体を手がける職人、書体デザイナーという仕事もある。

 大手書体メーカー・株式会社モリサワのUD担当 ブランドエキスパートである高田裕美さんの著書『みんなの「読める」をデザインしたい わたしは書体デザイナー』(Gakken)は、知られざる書体デザイナーの裏側を明かす1冊だ。

美術大学で文字や図形のデザインをほめられたことがきっかけで書体の世界へ

 ひとつの書体が完成するまで、2〜3年もかかるというのは驚きだ。デジタル制作が主流となった現在では、タイプディレクター、書体デザイナー、エンジニアなどが数人でチームを組み、基準となる400〜600文字のデザインにはじまり、日本語では少なくとも4000字、多くて2万字以上にも及ぶ文字の拡張、再三の文字確認や動作確認を経て、ようやく世に送り出されるという。

みんなの「読める」をデザインしたいわたしは書体デザイナー

 書体デザイナーとして長年活躍してきた高田さんは当初「絵本をかく人になりたい」という思いで、美術大学に進学した。しかし、授業で描いた文字や図形のデザインをほめられたのをきっかけに、書体をデザインするタイプバンク社のアルバイトでキャリアをスタートした。

 大学卒業後は社員として、プロの書体デザイナーの道に。高田さんの歩みは印刷、そして、デジタル技術の進化と重なる。

 世の中は、点の集合で文字を表現する「ビットマップフォント」の時代から、現在も主流の文字の輪郭をデータ化する「アウトラインフォント」の時代へと移り変わった。その間、書体デザイナーとしての32年間を生きた高田さんは、明朝体・ゴシック体・丸ゴシック体…と、数々の書体を手がけてきた。

プロとしての執念と矜持を込めて開発した「UDデジタル教科書体」

 なかでも、高田さん自身を成長させてくれたのは、年齢、性別、文化の違いなどに配慮したユニバーサルデザインの考え方を書体に取り入れる「UDフォント」だったという。

みんなの「読める」をデザインしたいわたしは書体デザイナー

 本書によると、2006年より書体メーカーの業界では「UDフォント」の開発が加速。高田さんの勤めるタイプバンク社にも「電車のモニター表示用に、目の不自由なお年寄りでも、モニターからはなれた場所からでもはっきりと読みやすいUDフォントを作ってほしい」という依頼が届いた。

 チーフデザイナーとしてチームの仲間と共に、高田さんは開発をすすめる。はたして真にユニバーサルデザインが考えられている、といえるか。その不安から、視覚障害研究の第一人者として知られる慶應義塾大学 経済学部 中野泰志教授にコンタクトをはかり、視覚障害の子どもたちが通う特別支援学校も訪問した。

 弱視の子どもたちに読みやすく、学びやすい書体を作りたい。その思いから生まれた「UDデジタル教科書体」など、高田さんの手がけた文字にはプロとしての執念と矜持が込められている。

 本書の終盤、現在も「世の中にない新しい書体を作り、読み書きにこまっている人たちにとどける」と胸に秘めながら突き進む高田さんは「自分らしさを大切にし、好きな自分でいられるように努力しつづけてほしい」とメッセージを伝える。書体デザイナーの裏側を明かすと共に「好き」は仕事の原動力になると、気づかせてくれるのも本書のよさだ。

文=カネコシュウヘイ

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