「どうして他人の子を愛せるの?」注目の作家・菰野江名が夜間保育園の物語から見つめた、プロの愛と覚悟【インタビュー】

文芸・カルチャー

更新日:2026/3/24

 作家・菰野江名さん

 ポプラ社小説新人賞受賞作『つぎはぐ、さんかく』でデビューした作家の菰野江名さんは、慈しみあふれる物語世界が多くの人の心を掴む、出版界も注目する作家のひとりだ。そんな菰野さんの3冊目の本『まどろみの星たち』(ポプラ社)は、夜間保育園を舞台に懸命に生きる親子と寄り添う保育士たちを描いた感動作。本作にどんな思いをこめたのか、ご自身も保育園を利用するママでもある菰野さんにお話をうかがった。

物語のスタートは夜型人間

――物語の着想は日頃のお子さんの保育園生活から得たのでしょうか?

菰野江名さん(以下、菰野):実はそうではなくて、猛烈な夜型の担当編集さんからなんです。私は超朝型で目覚ましより先に起きるタイプなので、とにかく「どうして夜に起きてられるんだろう」と不思議で。彼女が「夜の時間がすごく楽しくて、寝るのがもったいない」と言うのがすごく羨ましくて興味を持ったのが最初ですね。そのあと会食か何かで都内の道を夜の21時ごろに歩いていたとき、たまたま空のベビーカーを押したお母さんがある建物に入っていくのを見かけて。「こんな時間までやってる保育園があるんだ」と驚いたことが繋がって、物語にしようと思ったんです。

advertisement

――意外なスタートラインですね。舞台となる夜間保育園は実際に取材されたんですか?

菰野:行ったんですが、伺ったのは昼間で実際に夜間保育の状況は見ていません。基本的には私が子どもを通わせている保育園と変わりはなかったので、子どもたちがほかの園と同じように午前中を過ごして、夜はご飯食べて寝るんだっていうのがすごくイメージできました。夜の様子を見られたらよかったかもしれませんが、「夜は子どもたちを寝かさないといけない」という方針をしっかり持っていらっしゃるんで、それは大切にしたいと。ほかにも福岡にある夜間保育園を取材したノンフィクションライターの方のルポルタージュを読みましたが、そちらも絶対に夜は子どもたちを寝かせることを徹底されていましたね。

 「どうして他人の子を愛せるの?」注目の作家・菰野江名が「夜間保育園」の取材で触れた、プロの愛と覚悟【インタビュー】

――私も(子どもの)保育園を利用していましたが、正直、保育園の先生がこんなにいろんなことをされているのだ、こんなことを気にかけているんだというのは見えていなかったです。

菰野:そうですよね。友人に保育士がいるんですが、彼女に聞いて初めて知ったことも多いです。たとえば0歳児には睡眠チェックを5分おきにやるとか、すごくびっくりしました。取材した園も日頃利用している園も子どもたちの様子は同じでしたが、システムや保育士さんの考え方には結構違いがあるんです。なので、ふだんから保育園を利用されている方に「うちの園とは違うけど、でもこんな園もありそう」と思ってもらえるように書くことを意識しました。

――保育園の利用者は夜のお仕事につく方々で。お迎えに戻ってこないお母さんも登場しますが、こういうことって本当にあるんですね。

菰野:先述のルポルタージュにも、深夜に迎えに来るはずのお母さんが来ないと自分の家に子どもを連れて帰って、そのまま迎えが来ずに、最終的に園長ご自身の里子にしたこともあったとありました。驚く人もいるかもしれませんが、実際に自分が子どもを預けているときに、たまたま1時間でも自分の時間ができたりすると解放感がすごいので、その解放感を手にしたら最後、少しでも苦しいことがあると子どもを迎えに行けなくなる人も絶対にいるなというのが実感としてわかる。だから全然おかしいことじゃないと思いました。

――そして何より子どもたちがすごくイキイキしているのも印象的でした。

菰野:一番描きたかったのは、子どものリアルさみたいなところでもあって。子育てを終えられた方に懐かしく思ってもらえたり、子育て中の方に「めっちゃある!」って思ってもらえたりしたら嬉しい。私、自分の子どもに「地面にネギでお絵かきしないで」って言ったことがあるんですけど、そんなこと子育てしないと絶対に体験しないじゃないですか。そういう面白さみたいなのも盛り込みたいと思って書いていました。

――保育園の先生が読んだら「ああ、そうよね」って思うだろうし、それで子どもたちのことをさらに愛おしいって思ってくれたらいいですよね。

菰野:そうなんですよ。とにかく私が取材した先生は本当に愛にあふれていて、なんで他人の子なのにこんなに愛を持って接することができるのか聞いたら、「そんなの他人だからだよ」ってサラッと答えられて。その方は自分のお子さんの子育てが落ち着いてから、ずっと夢だった保育士資格を取って保育士さんになった方なんですが、義務感だけじゃできない仕事だし、「他人だから」と言ったのはプロ意識だと思いました。プロ意識と愛情のバランスみたいなのを上手にしないと決壊しちゃう仕事なんじゃないかと思います。

あわせて読みたい

まどろみの星たち

試し読み *電子書籍ストアBOOK☆WALKERへ移動します