猫だらけのキャンプ場で殺人事件? 容疑者は9人の高校生…鮮やかなロジックが光る青春ミステリ『猫鳴く森で謎解きを』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/3/28

猫鳴く森で謎解きを
猫鳴く森で謎解きを (楠谷佑 / ポプラ社)

 シチュエーションだけで、もう気になる。猫だらけのキャンプ場。集まった10人の高校生。楽しい青春の1ページとなるはずの時間に、突如として起きた殺人事件。状況から外部犯は考えられず、誰もが疑心暗鬼になり、ある1人に疑いの視線が向けられる。

 新進気鋭の若手作家・楠谷佑氏による『猫鳴く森で謎解きを』(ポプラ社)は、そんな渦中に置かれた高校生たちの青春ミステリ。全寮制の男子校内で起きた殺人事件を描く『ルームメイトと謎解きを』(同)に続く物語だ。前作同様、緻密に積み上げられていくロジックは私たちをぐいぐい引っ張っていく。その一方で浮かび上がるのは、高校生たちの熱い友情。ミステリとしての緊張感と、青春小説としてのまぶしさが、どちらも味わえる1冊だ。

 主人公は高校2年生の兎川雛太。全寮制男子校・霧森学院高等部に所属する彼は、夏休みにボランティア部部長・亜蓮に誘われ、1泊2日のボランティアに参加することになった。行き先は、「猫と会えるキャンプ場」。雛太のルームメイトで、動物を愛してやまないエチカが強い興味を示し、雛太も参加することになったのだ。15匹の猫が暮らすこのキャンプ場には、県内の有名進学校や女子校からも生徒が集う。だが、キャンプ2日目、1人の生徒が何者かに殺害された。状況から見て容疑者は9人。特に第一発見者となった雛太はみんなから疑われてしまい……。

 最初は「猫だらけのキャンプ場に友だちと行くだなんて楽しそう」とどこか呑気な気持ちで読み始めた。だが、キャンプ場にたどり着いた途端、そこに漂うのは不穏な空気。集まった高校生たちは、他校の生徒同士とはいえ、予備校などを通じてつながりがあるようで、初対面でない者もいるらしく、会話の端々からは微妙な人間関係が見て取れる。恋人同士がいれば、元恋人同士もいる。フラレた側もいれば、まだ思いを断ち切れず、何度も相手に言い寄っている者も。恋愛問題のみならず、高校生たちはそれぞれが胸のうちに何かを抱えている様子だ。そんな人間たちの感情のもつれをよそに、キャンプ場の猫たちは自由気まま。猫たちの姿に癒やされるからこそ、人間たちの姿にため息をつきたくなる。どうして人間は、猫みたいにみんなのびのびと過ごせないのだろう。ある登場人物が語る「恋のままならなさ」にも、つい深く頷きたくなる。人の感情の制御できなさこそが、この物語にざらついた緊張をもたらしている。

 そんな張りつめた空気のなかで、事件の探偵役を務めるのは、前巻に引き続き、雛太のルームメイトのエチカだ。ちょっぴり無愛想で、動物は大好きなのに、人間のこととなると一切興味がないはずの彼が、今回の推理にはやたら乗り気なのだ。雛太はその理由を、「大好きな猫が棲む森を荒らされたから」だと勝手に解釈したが、それはまるで違う。「エチカ、もしかして、オレのこと信じてくれてんの?」――エチカは、合理的な理由などなく、ただ雛太のことを無条件で信じている。それに気付いた時、雛太の胸にあたたかいものが広がっていくのと同じように、私たちの胸もじんわりとあたたかくなる。互いを思い合う2人の絆は、この物語の大きな魅力のひとつ。そして、その絆は感情面だけでなく、謎解きの場面でも大きな力を発揮する。

 エチカは、物理的な手がかりから推理を組み立てる天才だ。一方の雛太は、そんな名探偵の推理をただ待つのではなく、動機の探索ならできるかもしれないと独自に調査を開始する。エチカは雛太が得た情報も参考にしながら、“消去法推理”で犯人を絞っていく。2人の役割分担は実に鮮やかで、エチカが積み上げていくロジックは圧巻。「そうか、こうやって組み立てていけば、犯人を絞り込むことができるのか」と思わず唸らされてしまう。

 どうかあなたも、猫鳴く森で謎解きを。冴え渡るロジック、ひとつひとつの事実をつなぎ合わせた先に浮かび上がる犯人は誰なのか。そこで待っているのは、事件の真相だけではない。こじれた感情の果てにあらわになる人間のままならなさと、それでも失われない友情の輝きまで、ぜひとも最後まで見届けてほしい。

文=アサトーミナミ

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